梓さんは男性嫌いを演じてる

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 僕は回りくどい言葉は嫌いです。  大事な人には直接的な言葉でぶつかるのがポリシーです。  そんな僕の性格をよく知っている梓さんは「ストレート。でもカー君らしいや」と少し嬉しそうな様子を表情にちらつかせてくれました。その雰囲気や表情が、僕に対して好意を抱いてくれているんだとよくわかって、僕はとても嬉しいです。ただ、僕が年下とはいえ、そろそろカー君という幼い子どもを呼ぶような呼び方ではなく、克己(かつき)とちゃんとした名前で呼んでほしいですが。 「本当はねー、好きな人がいっぱい、いたんだー」  何も聞く前から唐突に自分語りを始める梓さん。  梓さんが話を始めると、大体こうです。  慣れている僕は、梓さんの表情の変化を見逃さぬよう、じっと顔を見ながら耳を傾けました。 「だけど今は好きな人でさえも苦手となり震えちゃうの。好きになるのが怖いの。私は男性が苦手だから」  そう言って、震える両手をにこやかに笑いながら見せてくる梓さん。  笑顔が楽しい気分のものではないことがよくわかります。  実際、すぐに梓さんの笑顔は、嘲りを深く帯びたものに変化しました。 「……そう演じていれば私を可哀想と思って優しくしてくれる人が増えるから。そうして私は、自分が傷つかないように生きてきた。相手の心なんて一切気を遣わずに」  震えない両手を自分で見下げながら「ね、私悪い女でしょ」と、まるで”生きている価値がないでしょ”という言葉を口にしているかのような口調で言い放ちました。その時に浮かんだ笑顔は今にも息が止まりそうなほど苦しそうでした。  ……でも、その苦しそうな表情が演技の時もあることを知っている僕は、果たしてどの部分が本心なのかを測れませんでした。
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