梓さんは男性嫌いを演じてる

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 梓さんは、本心を隠すことが上手くなると同時に、隠すための演技をしすぎて彼女自身がと首を傾げるほど上手くなってしまいました。だから自分の本心がわからなくなった彼女は、演技をした後に「あれ、今のどっちだっけ」と不思議そうに首を傾げることが多々あるのです。  今はただ苦しそうだから恐らく本心だとは思うのですが――そう思った後に「はぁ、くだらなっ」と吐き捨てて平気そうにへらっと笑うので、彼女の心を知るのは本当に難しいと思い知らされます。  見ているだけじゃわからない、彼女の本心。  普通の会話ではわからない、彼女が伝えたい思い。  だけど僕は、本心を知るための言葉を知っているから、その言葉で攻めてみるのです。 「いいんじゃないですかね。例え僕の前で演じている貴女が全部嘘の貴女でも、これから本当の貴女が別人格として現れても、一度好きになったから僕はどんな貴女でも好きでいられる自信がありますから」  嘘だらけの人には、相手が戸惑う程の純粋で真っ直ぐな本心を。  あまりにも純真すぎるものは疑われてしまいますが、それでいいのです。僕の言葉が一瞬でも梓さんの心を揺らせれば成功なのですから。  そして、今回もどうやら成功したようです。  僕の言葉に驚いて目を見開いた梓さん。見開いた瞳が和風の淡いオレンジ色の照明に反射して光りました。潤まないと、瞳の端って光らないですからね。 「うっそだぁ」  言葉を言う瞬間、梓さんは俯きました。その際に梓さんの耳にかけられた髪が肩に落ちました。セミロングの黒髪は緩いウェーブを描いていて何も結われてはいない。だから髪が顔を隠すように覆ってしまったため、光ったものが落ちたように見えたのは髪の毛なのか本当に潤んだものだったのかが判断がつかず僕は少し眉間に力を入れてしまいました。  僕のこの変な顔を見られずにすむなら、俯かれてよかったのか、悪かったのか。
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