梓さんは男性嫌いを演じてる

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 だけど、僕が貴女を判断するのは表情や雰囲気だけではありませんよ。  僕は耳がいいんです。  紡がれた言葉がかすかに震えたことを僕は聞き逃しませんでした。 「嘘じゃないですよ。証明したくても証明しようはありませんけどね」  淡々と語りかける僕の言葉は、果たして貴女の心のドアをノックできているでしょうか。少しはノックの振動が、貴女の心を打ってくれているでしょうか。 「ハハ、言ってくれるねー。じゃあさ、聞いてくれる? 最低な、さいっってーな、私の話を」  ああ、よかった。  苦しそうな顔で言われるのは少々心苦しいけれど、少しでもノックが響いたようです。  だけどそれに対して嬉しいという感情を表情に出さないよう、僕は自分の表情を誤魔化すために瞬きを数回して、吐き捨てるように語る貴女の物語に耳を傾けました。 「私ね、なんとなく好きだなって人に告白して振られるっていうのを繰り返してきたの。それでもあんまり嫌われずに生きてこれたからさ、私は好かれることはないけど嫌われることはない存在なんだと謎の自身を持っていたのよね。バカみたいに。だから、振られるとわかっていても”ちょっといいな”て思った人には告白したの。嫌われることはないから。まぁ実際に嫌われてなかったから、それは凄いな私って思ってた。……でさ、そんなこと繰り返してた時にさ。私のこの変な自信家な部分を見て欲しくない人が現れたのよ」  一息に語った梓さんは、ふと、視線を逸らしました。  その目の端は、過去にいる知らない誰かへと向けられた感情なのでしょう。  それに対して、僕は少し心がチクリと痛みましたが黙って次の話を待ちました。梓さんは「ハッ」と吐き捨てるような、どこか震えたような息を吐き出すと、再び話し始めました。
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