梓さんは男性嫌いを演じてる

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「見て欲しくないのに、私、傍にいたいとか思ったのよね。意味わかんないよね本当。その人の傍にいたい、仲良くしたい、私だけを見て欲しい――なんて、思ってたのよ、そいつを見るたびずっと。自分でもよくわからない矛盾だらけの感情で心が無茶苦茶になっていたわ。一体なんなのこれはって。初めての感情すぎて、訳がわからなくて、気持ち悪かった。今ならそれが真っ当な恋だとわかるんだけどさ。その頃は、私をこんな風にかき乱しやがって、て恨みを抱いていたのよ。そんでさ、その人に近づきすぎるのが怖いって思ったわけ。怖くて、欲しい人。本当、なんじゃそりゃって感情よね。もうね、あまりにも感情の波が凄すぎてさ、私、抱えきれなかったの。だから、だからさ。私は……私じゃない私になろうとしたの」  照明に照らされなくてもわかるくらいに濡れた梓さんの瞳が、僕の方へと向いた。 「いつもはあっさり好きって言うくせにさ。私、そいつに対して『お前だけは絶対に好きにならんわ』て吐き捨てたの。それってさ、例え好きな人相手じゃなくても、誰に言われてもショックよね。私がもし言われたら、その日一日泣くぐらい傷つくわ。……そんな酷い言葉を私は始めて恋した人に投げつけたのよ。初恋の人に。本当、最低よね。自分の感情に流されたくなくて。初めてのことが怖くて、怯えて。好きな人を傷つけたのよ」  梓さんの声が、段々と震え始めた。  色んな感情に染められ濡れた言葉は、僕の鼓膜を痛めるかの如く震わせて……僕の心を痛い程叩いていた。  そうやって激動の感情を散らすように、梓さんは感情の雨を今僕たちがいる空間に降らせていました。
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