梓さんは男性嫌いを演じてる

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「私、あのね。そいつに、好意をもらってるの、気づいてたんだ。だって、今までの奴らと目も、温かさも、行動も、言葉も、全部違ったんだもの。優しかった。嬉しかった。その温かさに私は埋もれたかったけど、初めてを戸惑う嫌な私がそれを許さなかった。だから私は、彼に酷い言葉を言った後、避けたの。言葉も、手も、空気も、全部、全部、避けたの」  コホコホ、と梓さんが咳をした。  感情を爆発させて喋ったからでしょう。あまりの感情の激流に梓さんの喉が耐えきれなかったようです。暫く苦しそうに咳き込んで、ハァ、と息継ぎをした後、梓さんは顔を上げ、言った。 「凄く……大好きだったのに」  そこで、言葉を切って。  梓さんは視線を下げた。  俯いた場所に、ポタタ、と滴が数滴落ちました。 「私でない私を演じた私は、その人の自尊心を砕いちゃったの」  梓さんは肝心な部分だけ言わなかった。そこで口を閉ざして、フハ、と自嘲の息を漏らした。  でも、僕はわかっているからいいですよ。  その初恋の男性が、梓さんの言葉で傷ついて家を出られない人になったことなんて、今の僕にとっては些細なことでしかありませんから。  過去は過去。  その男性も、いつまでも家にいるわけではないでしょうから。  だってその時期は思春期。心が動きやすい時期です。  大人になって梓さんと同じ年になっている彼は、梓さんの記憶の中にいる男性と同じではないでしょう。僕はこのことを調査したうえで知っていますが、言いません。  それだけじゃあ梓さんの心を揺らすことが出来ないと僕は知っていますから。  僕の心で貴女を揺らせなきゃ、意味がないんですから。 「だから私は、男性嫌いを演じているのよ。本当は好きになっても、もう私に好きになる資格なんてないから。男性嫌いって壁を作って、好きになる資格を得ないようにしている」  だからさ、君も私から離れてよ
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