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震える声で言葉を繋げていく梓さんは、涙に覆われた言葉を僕に向ける。
「なんか、私の心がダメなんだ。君から逃げたいって、言ってるんだ」
――その言葉たちを聞いて、僕は梓さんがこの話を唐突にした意味を理解しました。
なるほど、そういうことですか。
つまり、僕は今貴女を束縛している過去の男性と同じ位置に立っているということですね?
ならば、僕が言う答えは一つですね。
「逃がしませんよ」
せっかくここまで心を開いてもらったんです。
折角僕が望んでいた貴女が出てきたのに、みすみす逃がすわけがないでしょう。
「勝手な人」
そう言って面倒くさそうに吐き捨てる貴女が、嬉しそうに目を細めたのを僕は見逃しませんでしたよ。
「僕は手に入れたものを離すつもりなんかありませんから」
そう言って、僕は格好よくニヒルに笑ってみせる。
貴女が僕を見てくれるように。
貴女が僕のことしか考えられなくなるように。
そのために、僕はかっこいい大人の男を必死に演じているんですから。
疲れるんですからね、これ。
でも、演じてるんじゃなくて、いつかこれが僕の本当の性格にしてみせますから。
ね。
だから、僕のものになってもらいますよ。
面倒くさい人格がたくさんいる梓さん。
fin
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