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「なんか疲れた。死のうかな」
突然目の前でそんな言葉を吐かれて、無視できる人間ではありません。
でもきっと、目の前の人は――梓さんは、僕がそういう人だとわかっていて、わざわざ食事中に突然そう言ったのでしょう。
ちょっといいお値段のする和風のお店でご飯を食べよう、という誘いについていけば思った以上に高い懐石料理が目の前に出てきて戸惑いましたが『一度でいいから食べてみたかったんだ』と嬉しそうに梓さんが笑うから少々今月の生活が厳しくなろうが折角の料理を楽しもうと暫く談笑していたところの突然の言葉だったので、元々僕の前で言うつもりだったのだと見受けます。
でも、口の中でとろける田楽茄子を口に入れた後に言われるのは流石に困ります。甘い味噌と瑞々しい茄子の味や香りがするはずなのに、梓さんのたった一言で恐ろしい程口の中から消えてしまったのですから。なんという威力のある一言なのでしょう。このことに関してはいつか何かで補ってもらいたいですね。
「変な顔」
僕の顔を見て笑う梓さんの顔は、非常に疲れ切っていました。
ということは、先ほどの「死のう」という言葉は本心が半分以上入っているということでしょう。
……それはちょっと、いただけませんね。
先ほどまで美味しい料理たちに心が浮き立ち次はあれを食べようこれを食べようと食欲に支配されていた僕ですが、まだ半分も食べていない状態のまま箸を置きました。料理は温かいうちに、というのが作った人や材料を育てた人たちに対する敬意ですが、人の命が関わる緊急事態の時くらいは大目に見てもらえるでしょう。
「そりゃあ変な顔をしたくもなりますよ。死んでほしくないんですから」
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