26歳童貞。一生童貞が確定しました。

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 僕には誰にも言えない秘密がある。  こういっちゃなんだが僕はモテる。  これまで二十六年の人生の中で数多(あまた)の女性に声をかけられてきた。  サラサラの茶髪、切れ長の琥珀色の瞳、形の良い薄い唇。  この容姿のお陰で言い寄ってくる女性は数知れない。  しかし――。  しかし僕は童貞だった。  二十六歳童貞という不名誉を背負って生きている。  機会はいくらでもあった。  あったが全くその気になれなかったのだ。  女性というものに欲情することがなきなくて、じゃあ僕はゲイなのか?と問われるとそれも違うのだ。  僕、如月玲也(きさらぎれいや)は二十六歳童貞という不名誉を今日も背負い続ける。 「如月」  そう声をかけてきたのは玲也が務める滝口会計事務所の所長、滝口 翔(たきぐちしょう)だった。社員は僕だけという超小規模事務所だ。  歳は三十四歳でラフな黒髪、鋭い瞳、弧を描いた唇は同性の目から見ても色気を漂わせていると感じさせる。 「はい」 「三原食品の会計帳簿、持って行ってくれるか?」  三原食品か……あそこの社長はどうもゲイのようで僕の事を色目を使って見てくるんだよな……そう考えると憂鬱だったが仕事とあらば仕方がない。 「はい、所長。わかりました。行ってきます」 「頼んだ」  薄く笑う翔さんの笑顔に一瞬見惚れている自分に気付いてハッとする。この男の色香は人を惑わせる。でも僕はゲイじゃない。  頭を振ってスマートフォンを取り出すとタクシーを呼んだ。  すぐにタクシーが所の前に到着し乗り込む。 「すみません、三原食品まで」 「はいよ、お兄ちゃん綺麗な顔してるねぇ」  タクシードライバーが揶揄うように言う。 「いえ……」  容姿を褒められることには慣れていた。  そんな僕が……そんな僕が……なんで童貞なんだ⁉  僕はやりきれない思いになる。  やがて三原食品に到着し、僕はタクシーを降りた。  三原食品の建物を眼前に見据え、憂鬱感でいっぱいになった。  またあの社長に会うのか……。
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