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翌日、佐橋に
学食でランチとプリンを奢ってもらい、
午後の講義を受け、再び中庭に足を運んだ。
珍しく、川瀬はひとりだった。
ベンチに座り、僕を微笑んで見つめている。
「じゃあ、返して」
川瀬の前に手を出した僕に、
川瀬はこれ以上ないくらいの笑顔で、
「岸野くん」
と僕の名前を呼んだ。
「何」
「僕、岸野くんが好きだよ」
「は?」
「だから、僕と付き合ってくれない?」
「‥‥はい?!」
あまりの衝撃に、声がひっくり返った。
「お前、何言って」
動揺を隠しきれずに大きく息を吐いた僕に、
川瀬は更に言葉を続けた。
「試しに、1ヶ月。ダメかな」
「新聞購読だって、もっと長いよ」
「ふっ。じゃあ、付き合ってくれるの?」
「だいたい、付き合うって具体的に何を」
「え?セックスとか?」
「誰と誰がだよっ」
「岸野くん、言葉のチョイス面白いよね。
佐橋くんが言ってた通りだあ」
「川瀬、冗談は止めろよ」
早くノートをと再び手を出した途端、
川瀬に手を掴まれ、引き寄せられた。
「うわっ」
次の瞬間、僕は川瀬の腕の中にいた。
川瀬に抱きしめられ、パニックに陥った。
自分の頬に、川瀬の耳のピアスが触れる。
「川瀬、離せ。落ち着けって」
周りに見られたら、もう大学を歩けない。
「付き合ってくれるなら、離すよ?」
後頭部をぽんぽんと軽く叩かれた。
まるで幼子をあやす様な仕草に腹が立ち、
首を振った。
「絶対、嫌だ。何でオトコと付き合う?」
「じゃあ、一生離さない」
川瀬にキツく背中を抱きしめられ、
身動きが取れなくなった。
「おい、人が見てるっ、離せって」
「岸野くん、大好きだよ」
これは何かの罠か、ドッキリか。
川瀬の暴挙に近い行動によって、
周りにギャラリーの輪ができていた。
その中に、ニヤついている佐橋もいた。
「見てないで助けろ。川瀬がおかしい」
「いや、たぶんおかしくない」
「はあ?佐橋まで何言ってんの」
「だって、川瀬。岸野のこと好きだし」
「お前、知ってたのかよ」
絶対、ランチじゃ済まないからなと
佐橋に向かって言葉を吐いた僕に、
川瀬は更にヒートアップし、
僕の頬に何度も頬ずりをしている。
「おい、いい加減にしろよっ」
「一生離さないって言ったでしょ」
参った。
付き合わなければホントに離れなさそうだ。
「‥‥わかった、ちゃんと話し合おう」
「付き合ってくれる?」
「ああ。だから離せ」
根負けして承諾した僕に、
ギャラリーから拍手が起こった。いらん。
カラダが自由になり、
乱れた髪を両手で整えながら、
川瀬を睨みつけた。
「1ヶ月だからな」
「ありがとう。よろしくね。岸野くん」
こうして僕は、
川瀬と付き合うことになってしまったのだ。
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