流れる雲に君を問う

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 自然が多いといえば聞こえはいいが、はっきり言ってここは田舎だ。唯一自慢できるものがあるとすれば、新しくできた空港くらいか。  途方もなく広い敷地には、展望広場というこれもただ広いだけの公園が設置されていて、何もない故に飛行機を眺めるには絶好の場所だ。そして、飛行機に興味のない私は、勝手に予備グラウンド扱いをしている。 「今日も、いい天気……!」  大きく空を仰いで手を伸ばす。強い風でちぎり飛ばされたかのような小さな雲や、細くかすれたような雲がのっぺりとした青い空に浮かんでいる。入道雲は見当たらないから、今日は一日晴れだろう。  夏休み初日。  午前中で部活を終えた私は、夕方近くになってから自主練習に来ていた。  猛暑による弊害は部活にまで及んでいる。大会を目前に控えた今でさえ、屋外での運動は昼前に切り上げなければならない。練習量に満足できない場合は、自分でどうにか補うしかない。  太陽が傾きかけたこの時間になっても、熱と湿気をはらんだ空気は重くてうっとおしい。私は準備運動を終えると、吹き出した汗もろくに拭わないまま、丘の脇の縦のラインを軽く走った。  密度の高い空気が一瞬だけ肌にまとわりつき、ほのかな熱を残して後ろへ流れていく。  刹那に生じる幻のような涼しさ。  それに夢中になっていると、いつの間にかトップスピードに乗っていた。つまさきが地面に触れる時間はほんのわずかで、そのまま浮いて飛んでいってしまいそうな錯覚に陥る。  もし本当に空を飛べたら、走るよりも、もっと自由を感じられるだろうか。 「――ああ、空、飛んでみたいなあ」  走った勢いを殺しがてら、芝生に転がりこんで仰向けになる。誰もいないこの空間を独り占めしている開放感で、思わず独り言が大きくなった。    だから、返事が返ってきてぎょっとした。 「いいね。それ」 (ひえっ!?)  笑みを含んだよく通る声に顔を向けると、小高くなった芝生の辺りに男子生徒が佇んでいた。  緑とグレーを基調とした制服に、きらりと光る胸元の校章バッジ。うちの高校の生徒に間違いない。  片手で本を開き、こちらへ向けた顔はかなりの美形で――、自分から話しかけてきたくせに、なぜか驚いた表情をしていた。
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