流れる雲に君を問う

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 待ちに待った晴れの日が来た。  ようやく外で体を動かすことができる。少し走っていないだけで、感覚が鈍っていることを実感する。  意気揚々と空港へ出かけた。先輩に会えば、気がかりだったことも消化できて、心残りなく練習に集中できるだろう。  それなのに、彼は一向に現れなかった。  次の日も。  その次の日も。  受験生なのだから、毎日来る方がおかしいのだろう。そう思うが、一抹の不安が心をよぎる。 (……まさか、あのまま、どこかへ消えてしまったんじゃ……)  そんな益体のないことを考えていたから、いざ先輩に会えたときは、自分でも驚くほどほっとした。 「あっ……、相原先輩!」  木陰でまどろんでいた先輩が、突然の大声にびっくりして飛び起きた。 「うわっ! な、なんだ!?」 「あっ、すみません」  無意識に指さしていた右手を左手で下ろし、素直に頭を下げる。すると、彼はさらに目を見開いた。 「お前、なんで……?」 「……、おまえぇ?」  三回会っただけでお前呼ばわりか。安堵の感情が一息に苛立ちに塗り替えられる。そういえば、何回か呼び捨てされた気もするし、ちょっと顔がいいからって調子に乗りすぎではないだろうか。  まあ、頭と運動神経もいいんだろうけど。 「あー……、えーと?」  渋面になった私を見て、先輩が眉間に手をやった。何か記憶を掘り起こそうとしているが、起きたばかりで頭がうまく回らないといった感じだ。二日酔いの担任が、よくこんな仕草をしている。 「笹井雪花……って子に似てる」 「……むしろ、それ以外の何に見えます?」  冷ややかな言葉と視線をその眉間に返す。  なぜこうも簡単に私のことを忘れるのだろう。  そんなに印象が薄いのか。
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