流れる雲に君を問う

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「あ……、ケータイ……」  家族に連絡を取ることをようやく思いつき、のろのろと鞄の中をまさぐった。頭がぼんやりしているせいか、ケータイを探り当てるのに時間がかかる。なんとか見つけて取り出すと、その拍子に、小さな物がころりと落ちた。 (――ああ、なんだ、校章か)  部活で着替えたときにでも取れたのだろう。夏休みに入ってから制服を着る機会がなかったので気づかなかった。危ないのでピンをはめてジャージのポケットにしまい、ついでに落としたままだった鍵も拾った。なぜ鍵が入らないのか、すべて、ケータイで聞けばわかるはずだ。  すぐに両親に電話をした。どちらも出ない。一応、自宅の固定電話にもかける。――だめだった。さらには、李果。他の友達。陸上部の仲間。  全滅だった。出ないというより、通じない。ケータイがどこにも繋がらない。  どのくらい放心していたのだろう。頬にぽつりと雨粒が落ちて、ようやく思考が回復した。 (――とにかく、中に入ってみよう)  ここでこうしていても始まらない。非常事態だし、窓ガラスを割るくらいは許してくれるだろう。地面に目をこらして、手頃な大きさの石を探す。  ふたを開けたら、きっと何でもないことなのだ。何かのサプライズとか、業者のミスとか。中に入りさえすれば、きっと全て解決する。電話が通じないのは故障だろう。近所の建物が違うように感じたのは、私の体調が万全じゃないからで――。  自分でも無茶な言い訳だとわかっていた。けれど、他にどう説明がつけられる?  手のひら大の石を持ち上げたとき、ぽんと、肩を叩かれた。ぎくりとして振り返る。 「そこは、君の家じゃないよ」  私の背後に、相原先輩が立っていた。
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