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「じゃあ、そろそろ行こうか。どこに行こうとしてたんだ?」
「えっ? あ、ええと……、空港に行こうと思ったんです」
全ての始まりは、あの公園だった。だから、あそこでなら何か手がかりが見つかるのではと思ったのだが、今となっては、行く意味などないように思える。
しかし、どう言おうか迷っている間に、先輩は歩き出してしまう。私も仕方なく、重い足取りでその後をついて行く。
自転車置き場へ着いた。夏休み中だし、時間も時間だ。来たときは私達二人分の自転車しかなかった。だから、目当ての物はすぐに見つかるはずだったのだが。
(……あれ?)
慌てて走り寄る。先輩の自転車はあるのに、その隣に停めたはずの私のそれが見当たらない。
盗まれたという可能性もゼロではないが、この状況にふさわしい理由は他にあった。
「……これって、元の世界に戻ったってことですよね?」
安堵の溜息をつきながら、先輩に同意を求める。
なぜ自転車だけ消えたのかはわからないが、ちゃんと帰れることが証明されたのだ。
けれど、先輩の表情は晴れない。不思議に思って質問を重ねる。
「どうしたんですか? あ、公園のことなら、別に今更行けなくても……」
「うん……、いや、それはいいんだけど」
「え?」
「……不思議に思わなかった? 自転車だけが消えたの」
先輩は難しい顔をして、自転車があったはずの空間を見つめている。
それは確かに不思議だった。無機物だからかと思ったが、だったら、この鞄は。それに、なぜ今なのか。
「考えてみれば、以前君が消えたときもこんな感じだったんだ。よそ見をして、視線を戻したときには、もう君はいなかった」
「……それじゃ、見ていなかったから、戻ったってことですか?」
「それだったら、とっくに君もそうなってるはずだろう? いや、今まではそうだったのかもしれない。そうじゃないってことは、別に要因があるはずだ。君の話から推測するに、他の俺とは違って、俺とは二回も会ってることとか……。でも、多分、それだけじゃないんだ」
(それは、やっぱり、帰れないかもしれないってこと?)
喜んでいいのか、悲しんでいいのか、わからなくなってきた。何の反応も返さない私をちらりと見た先輩は、ぎょっとしたような顔をして私の肩をつかんだ。
「雪花!? その顔……!」
「……え?」
顔を上げようとしたら、脈絡もなく、両足から力が抜けた。
地面に倒れ込みそうになった私を、とっさに先輩が抱きかかえてくれる。同時に、激しい頭痛と倦怠感に襲われた。
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