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「そっか。じゃあ、自己紹介すると、俺は相原向貴。三年で、理系クラスの二組だ」
やっぱり三年生だった。名前も初めて聞くし、初対面が確定する。それはいいのだが、結局私も名乗らなければならなくなり、しぶしぶと口を開く。
「……ささいせつか。二年です」
「え?」
「笹井、雪花です! 笹の、井戸の、雪の花!」
「――……」
彼は一瞬だけ眉根を寄せて、口の中で何かつぶやいた。
「やっぱり、本物か……」
「え?」
「いや、何でもないよ。えーと……。君さ、ドッペルゲンガーって知ってる?」
「――はあ?」
今度は何の話だろう。うさんくささマックスである。私が引いたのがわかったのか、相原先輩は慌てた。
「ああ、知らないならいいんだ。それより、その格好、陸上部みたいだね」
「……そうですけど」
「大丈夫なの?」
「何が」
「走って」
「……っ」
イライラの頂点に達した私は、彼のことは無視することにした。たとえ先輩だろうと、これ以上付き合ってはいられない。
そう思って返事もせずに、小石を捨ててストップウォッチを確認する。そこに、にゅっと腕が伸びてきたので仰天した。
「え、ちょ……、何するんですか!?」
「タイム計るんでしょ? 俺がやってあげる」
「けっ……、結構ですけど!?」
断ったのに、やんわりと手をほどかれたと思ったら、目的の物は彼の手に渡っていた。
なんだこれ。魔法か?
取り返したかったが、そのためには彼に触らなければならないし、時間もかかりそうだった。彼が何をしたいのかわからないのは不気味だが、正直、時間が惜しい。
気を取り直して位置に着き、クラウチングスタートの姿勢を取った。深呼吸をしてゴールを見据える。
――周囲の音が消える。
自分の体に意識をめぐらし、呼吸を整えて……、スタートを切った。
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