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翌日、二人は婚姻届を提出した。
大安吉日の恵まれた日だった。
市役所に行く前に龍一の実家に挨拶に行った。
母親も芽衣を、まだ完全にという訳ではないが迎え入れてくれた。父親とは初めて会ったが恰幅の良い方ですぐに芽衣を気に入ってくれた。
二人は晴れて夫婦になった。
残る心配は美也だけだった。
そんな時、芽衣が夕飯を作っているとインターホンが鳴った。
「はーい」
お母様かな?と思って玄関の扉を開ける。
するとそこに立っていたのは美也だった。
「美也…さん…」
「こんばんは」
美也が勝気な瞳を向けてくる。芽衣は完全に委縮してしまっていた。とりあえずお茶を出して龍一の帰りを待つ。今か今かと龍一を待った。
やがてガチャガチャと玄関の鍵が開き、龍一が帰ってくる。
芽衣はパタパタと龍一を出迎えに行った。
「芽衣、ただいま」
「龍一さん、美也さん…来てるの」
「美也さんが?」
龍一が顔を曇らせながらリビングに入って行く。
芽衣もドキドキしながらその後に続いた。
「美也さん、こんばんは」
「龍一さん!」
美也の顔がパッと明るくなる。
今まで仏頂面で龍一を待っていたのが嘘のような笑顔だ。
「すみません、美也さん…俺、芽衣と結婚しました」
「聞いてます」
美也がニッコリ笑ったままそう返事をした。
その笑顔の意味はなんだろうと芽衣は不安になる。
「今日はどうして?」
美也がそこで一拍置いた。
「龍一さん、仕事は辞めないでください」
「えっ…」
龍一がキョトンと美也を見下ろす。
「パパとママが勝手にしたことですから。私はお見合い破棄になって仕事まで奪うような惨めな女になりたくないんです」
「美也さん…」
龍一が戸惑った表情をする。
芽衣もオロオロと二人の会話を見守った。
「芽衣さんと幸せになってください、龍一さん」
濃いアイシャドーをニッコリ光らせて美也が笑った。
「美也さん…ありがとうございます…すみませんでした」
「謝らないでください。もし離婚したら、その時は私と結婚しましょ?」
クスクスと美也が笑う。
「離婚しません!」
芽衣が叫んでいた。思わず叫んでいた。その叫びに美也がまたクスクスと笑った。
「わかってますよ。じゃ、私帰ります。お幸せに」
美也が龍一と芽衣に見送られて玄関を出て行った。
玄関で龍一が芽衣を抱きしめる。
「離婚なんて絶対にしないからな」
「はい…」
当たり前だ。離婚なんて絶対にするわけがない。龍一さんが嫌だっていっても離してやらないんだ、なんて私は思う。
「芽衣、メガネ外せ?」
「いやーーーー!」
玄関に芽衣の絶叫が響き渡った。
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