海と絵本

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海と絵本

一体、どんな進路があると言うのだろう。 ディスティニーリゾートスタッフ? デザイナー? 演出家? 水族館スタッフ? (しっくりこない…) 思いつく限りを頭の中に思い浮かべるが、あの胸をザワつかせるものとは、どれもこれも違うような気がする。 (なにがしたいの、私は!) 自分に苛立ちを覚えながら、愛用の自転車の元へとたどり着く。カゴにポイッと鞄を投げ入れると、スカートが乱れるのも気にせずに、颯爽と漕ぎ出す。 少しでも早く着きたくて力一杯に立ち漕ぎをし、制服のスカートをヒラヒラさせながら、お気に入りのある場所へと向かった。 広大な田んぼ道を脇目も振らずに進み、前方に、疎らに暴風林が見えてくる。ペダルを踏み進める度に濃くなる、じっとりとした磯の匂い。 (よし、もうすぐ着く) 海沿いのトンネルの手前側、人が居ない広い波止場に、キーっと鋭い音を立てながらブレーキをかける。 適当に自転車を停め、端っこに座り、足をブラブラとさせる。色んな人から、落ちたら危ないから止めろと言われてはいるが、こうすると少しだけ自由になれる気がする。 周り見渡し、近くに誰も居ない事を確認すると、そのままアスファルトに寝っ転がって、頭の後ろに両手を当てて、目を閉じた。 日差しを浴びると、目の裏側が赤く染まる。それが記憶が引き出し、あの時のスポットライトが思い出される。 「あれを…私に当てはめたら、どうなるんだろ?」 思わず呟いてしまう。あの日、姉に「マリエル役になりたいの?」と聞かれたが、それとも違う。 「そもそも、あれは外国人が演じているからからこそ映えるんだよ。純日本顔の私が、なれるわけがないしさ」 尚も、独り言を続ける。 小さい頃から楽天家三人に囲まれて育った私は、困り果てて、独り言を漏らす事が多くなっていた。独り言を垂れ流し続けては、それに対して話しかけられる事もしばしばある。それが面倒で、いつもは無言で過ごしている。 寂れて誰も居ない、このお気に入りの場所で盛大に独り言を言うのが、ストレス発散の一つだ。 「はぁ…。なんかもうさぁ、こう、もう少し、真面目に考えておけば良かったなぁ」 いつも頭から離れないくせに、日々の勉強や友達付き合いなどを優先する。それが当たり前のことではあるが、人生の岐路に来れば後悔はしてしまう。 はぁ、とため息をつき、頭の後ろに当てていた両手を大きく広げ、だらしなく大の字になった。 海風でスカートがパタパタとめくり上がるが、誰も居ないこの季節外れの波止場では、気にして押さえる事すら面倒だ。 「絵本の中、そのままな感じだったなぁ…」 確かに存在感はあるのに幻想的な夢のよう。小さい頃、童話や絵本を広げた時に、その世界に飛び込んで行けるような感じと同じ。 ・・・ 絵本? 自分の呟きに、しばらくしてから、目をつぶったままでハッとした。 (そうか…あれになりたいんじゃない…) “あれを創りたい”んだ。
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