折り鶴は暇つぶし

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「いやー、腑に落ちないわ」  美香が言う。 「そう? 人間暇つぶしにいろいろやってるもんじゃん」 「そりゃ暇さえあれば鶴折ってる人間もいるんだから、暇さえあれば折り鶴を意味なく盗む犯罪者もいるでしょうよ。でもさあ、なんだかなあ」  美香は首をひねっている。 「まだ千佳のストーカーですって言うほうが信ぴょう性があるんだけどなあ」 「そう?」 「うーん……ま、いいや。これに懲りたら、あんたも新しい趣味見つけてみたらどう?」 「何かに興味が持てたらいいんだけどね」  本も読むし映画も見るが、暇つぶしといえば折り鶴なのだ、私の中で。 「SNSは? それかフリマアプリで……」  いいかけた美香ははっとした様子でスマホを取り出した。なにやらぴこぴこ入力を始める。真剣な横顔。やがて、美香はため息をついて私にスマホを差し出した。そこには、見覚えのあるツルと書かれた紙バッグと、そのそばに並べられた色とりどりの鶴の画像。私の折った鶴は100羽1000円で売られていた。なぜ紙バッグを流用する? あと絶対高すぎる。 「売ってんじゃん! マキタ!!」  美香が大きな声を出した。私からスマホを受け取ると、またなにか入力をはじめる。 「あいつ! 理由はないとか暇つぶしだとか言ってたのに、千佳の鶴売ってる! しかも異常な高値で!」 「なんかあほみたい。折り鶴ってフリマサイトで売れるもんなの?」 「売れるみたい。だいたいなんでも売れるもん。でもやっぱ相場はもっとやすいね、200羽400円とかだもん」  相場を調べていたらしい。人から盗んだものを相場無視で高値つけて売るとか意味が分からない。ううん、意味なんかないのかも。 「千佳も家にある鶴全部繋げて売ったら?」 「いや、うーん」 「なに?」 「意味がないからいいんだよね……鶴をお金にしちゃったらそれはもう理由ができちゃうし」  美香はスマホを握ったまま呆れたよな顔をしていたが、千佳らしいわ、と笑った。 「でもあの泥棒野郎のことはサイトにも大学にも通報する」  これは意味のあることです、と美香は断言したのだった。  
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