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鶴を折るのが趣味だ。なのでいつも折り紙を持ち歩いている。友人の美香なんかはなんか陰キャぽいなどと言ってくるが別に人の勝手だと思う。私が鶴を折ることになんの意味もないけれど、みんながやってるSNSだって突き詰めて考えれば意味などないはずだ。暇つぶし、ただの。私の鶴だってそう、暇つぶし。大学にスマホを持っていくように、折り紙を持って行って空き時間にせっせと折る。友達と話しながらも折る。折った鶴は白い紙バッグに入れる。マジックでツルと大きく書いてある紙バッグ。帰宅したら折り鶴用の衣装ケースの上で紙バッグをひっくり返して中身をぶちまける。もう何年もそうしている。理由なんてないのだが、私のこの趣味を知った人にはいつも動機を聞かれてしまう。本当になんの目的も理由もない。しいていうなら、余計なことを考えないように、だろうか。ううん、それもしっくりこない。とにかく、私は鶴を折る。千羽鶴用の小さな折り紙も使うし、百均でみかけたおしゃれな折り紙も使う。その日も、大学の講義室で一人鶴を折っていた。徐々に人が増えてきて、あと数分で講義が始まるというタイミング。私は尿意を催して、カバンを持って講義室を出た。こういうとき、いつも鶴の入っている紙バッグは座っていた椅子の上に置いていくことにしている。場所取りだ。鶴なんか盗む人はいないし、逆に盗まれていてもどうってことはないだろうと思い、いつもそうしていたのだが。
お手洗いから戻った私は愕然とした。紙バッグがなくなっていたのだ。慌てて席の周りを探したが、見当たらない。どうしてしまったんだろう。まさか本当に盗まれたのか? そんなことある? 折り鶴盗む人って何が目的なんだ。いやいじめ? 鶴折ってるのがきもいから盗まれた? 鶴はゴミ箱行き?
私は椅子に座り直し、あたりを見渡した。みんなそれぞれ友達と話したり、机に突っ伏したり、いつも通りにしか見えない。私は小さく首を傾げ、それからため息をついた。まあ、仕方ない。どうせ暇つぶしで折った鶴だし……。
動揺はしていたが、無理やり自分を納得させたのだった。ところが、鶴はその日以降もなんども盗まれ続ける。
「はぁ? 鶴が盗まれる? 何言ってるのあんた」
鶴泥棒が現れて数日、すっかり参ってしまった私は美香に相談した。大学近くの喫茶店は今日も今日とて学生たちでにぎわっている。
「鶴が盗まれるの」
私は繰り返した。美香は形のいい眉をひそめ、それから意味わかんないと吐き捨てる。
「鶴って、あんたがいつも折ってるやつだよね? なんで盗まれるの? どういう状況で盗まれるの?」
私は説明をした。場所取りのために鶴の入った紙バッグを置いてその場を離れると、必ず紙バッグがなくなるのだと。
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