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「太輔を思い出すというのは、そういうことだったの……」
思い出したことを一通り話した晴乃に、美砂子は溜息をひとつ吐いた。
「同じにしてしまっては大変失礼ですが、両親の話を思い出すと太輔様のことを思わずにはいられないのです。太輔様は何も……何も悪いことなど……」
その時、美砂子の手が両手を膝に添えられた晴乃の上に掴むように乗せられる。その色白の手に晴乃は目を見開いた。
「それ以上は駄目よ。確かに太輔は何も悪いことなどしていないのかもしれないわ。でもそれはあくまでわたくし達の思うことであって、誰もがそう思っている訳ではないの。それは、貴女の実の両親と同じじゃないかしら」
話を最後まで聞いた美砂子の言葉に、晴乃は何も言えなくなる。
「誰だって、血筋の中に殺人を犯したものを家族だとは思いたくはないでしょう。そして身を遠くに置こうとするものよ。貴女もそうじゃないの?実のお母さんが身を守る為に、祟りという危険から身を守ろうとしたから……。たとえ真実が分からないにしても、生きていることに変わりはないでしょう?」
美砂子のいつもと変わらない柔らかい声音が、晴乃の耳を打つ。太輔ら家族も本家より遠くに家も持っているからだ。
「二十年経っても、これから何十年と経とうと、罪は消えないわ。人々から消え去ろうとも、わたくし達は消してはならないの。貴女が言った宿命という意味も生きる者にとっては足枷になり兼ねないけれど、背負うことが今の家を成り立たせていることも事実なのよ……」
美砂子は言葉尻を強めると「ごめんなさいね」と晴乃の手の甲から手を離した。
「私は……っ」
いたたまれないような美砂子の表情に何かを言わねばと晴乃は発し、先程離れたばかりの美砂子の手を掴んだ。
「晴乃さん?」
「えっ……あっ、これは……あの……っ!」
「落ち着いて、晴乃さん。掴んだままでも良いから、言いたいことがあるなら、教えてくれないかしら?」
いつも優しい言葉を掛ける美砂子には、感謝してもしきれないと、晴乃は言葉を選んで話し始めた。
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