記憶デバイス  理想的な家族12ー凪

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 二人目は女性の身体で生まれてきたが、男性の心を持つという、トランスジェンダーの男性。確か二十歳のお祝いに、ボディレンタルを依頼したと言っていた。二つの異なる性を抱えて、悩みが影を落とす不幸そうな男を想像していた。だが、実際現れた男は陽気で明るく、手術をする前に、男の身体を体験したいからという理由で、ボディレンタルをした。  行先はディズニーランドで、彼女とデートすると言って、ウキウキで出かけていった。  凪は彼がデートをしている間中、アトラクションに乗ってアンドロイドが故障しないか心配で、何時間もGPSの点灯に釘付け状態だった。いい加減腹が立ってきた頃、彼が満面の笑みで戻ってきた。楽しかったーという彼に、良かったと思うより、いい気なものだと思ったのを覚えている。  彼のこの安くはない誕生日プレゼントの費用は、彼の両親から支払われていると、知ったからだった。  彼が帰った後も、凪はプリプリ気が立っていたが、しばらくして、お礼の手紙が彼から届いた。そこには、性別適合手術は当面見送ることにした、と綴られていた。  楽しかっただけに見えたあのデートで、彼は何か思うところがあったのだろうか。
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