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母はそれからすぐに、家族の他の誰にも会うことなく、姿を消した。だから凪も、家族の誰にも母が帰ってきたことを言っていない。
京次郎には記憶デバイスは郵送で送られてきたと言った。
母からの伝言を「知らない方がいい」ということまで含めて、叔父に伝えた。
叔父は神妙な顔で「分かった」と頷き、「セキュリティ対策は強化しないとな」とボスらしい顔で言った。
「それにしても、良子さんって何者?」
当然の質問に、凪はしれっと答えた。
「俺の母さん。だから秘密は守ってね、怖いから」
誰にも言うなと、暗に脅しをかける。
「あ、今の顔、良子さんにそっくり」
京次郎がぞっとしたように、自分の腕を抱いた。
「あ、そういえば、母さんが言ってたよ。京次郎くん、しっかりしなよって」
「え?ほんと?」
いや、嘘。
京次郎がソワソワしているのを横目に、凪は記憶デバイスを手に取ると、コントロール室に向かった。
デバイスの中身は消去されてしまっただろうか。されたとしても、痕跡くらい残っているかもしれない。
自分の目で確かめておかないとな。
母に頼るのは、極力御免被りたい。
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