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「で?何が盗まれたって?」
凪は実の叔父でもあるボスの、胡散臭い顔を見あげて、訊ねた。
凪の叔父である篠山京次郎は、レンタルボディという非常に胡散臭い会社を経営している。ロボットのボディに人の意識を接続させ、レンタルする。
この場合のロボットは、アンドロイドと呼ばれる精巧なものだ。非常に高価な為、レンタルも高額になる。だれがそんな大金払うかと凪は思っていたが、これが結構、需要があるのだ。
高価なうえ、法にも引っかかるというのに、上は九十歳から下は九歳まで、堅気からどう見ても関わり合いたくないようなやくざ者まで、どこから話を仕入れてくるのか、冗談のようなこの会社を訪ねてきた。
冷やかしも多いが、切実な依頼者も少なくはない。京次郎はそう言った人間の依頼に応えている。
「それがさぁ」
京次郎は言いたくないなぁというように、困ったような笑みを浮かべて、小首を傾げた。
そんな仕草をすると、何も考えていない軽薄な大学生に見える。
「聞かないと、対処できないでしょ」
凪が冷たく言うと、京次郎はため息をついた。
こっちがため息をつきたい。
中学生の甥っ子兼従業員に対して、三十代も中頃の叔父兼上司の態度ではない。
俺はこんなところで一体何をしているのだろうという気にもなってくる。輝かしい未来が、何かとんでもなく厄介でつまらないものにめちゃくちゃにされていくような気がする。
こんなところにいないで、早く家に帰って、普通の中学生に戻れと、理性が全力で訴えている。
そんなことを凪が考えているとも知らず、京次郎はおずおずと打ち明けた。
「三号機の記憶デバイス」
凪は絶句した。完全に普通の中学生の道は断たれた。結果次第では、俺はこの男と仲良く刑務所暮らしだ。
あ、俺はまだ未成年だから、少年院か?
凪は恐る恐る確認した。
「三号機に接続した依頼者の中に、やばい行動をした人間がいるということ?」
「その可能性はある」
厳かに言うボスを、凪は殴りたくなった。
つまりアンドロイドでやらかした奴がいるかもしれないってことだろ?
「へらへら笑ってる場合じゃないだろ!」
凪が怒鳴りつけると、AI搭載の優秀アンドロイド受付嬢が反応した。
「社長に無礼な態度は許しません!」
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