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政府はまさにそれを危惧したために、ロボットに人の意識を接続する研究を、民間人に禁じた。これは政府が技術を独占し、流出させない為の建前だが、それでももし、アンドロイドで罪を犯すようなことが起これば、厳しく罰せられるだろう。
レンタル時、アンドロイドの行動はGPSで大まかに追うことはできるが、実際に何をしているのかは把握できない。プライバシーにかかわることだし、逐一見られるのは依頼者だって嫌だろう。
ただ事故や事件に巻き込まれた時の為に、本体には記億デバイスが装備されている。いわばドライブレコーダーのようなもので、何か問題が起った時の為のものだ。
それを盗む目的は二つ考えられる。アンドロイドの行動記録を隠したいか、知りたいかだ。
三号機は男性型のアンドロイドだ。男性型は二十代半ばと五十代のモデルがあるが、三号機は若い方だ。依頼者の年齢、もっと言えば性別の関係なく、どのモデルにも接続可能なので、当然若い方が人気と思っていたがそういうものでもないらしく、男性型の二十代と五十代のモデルの利用数は半々といったところだった。
顔、スタイル、とも、不細工に造る理由がないので、三号機はスラリと背の高いイケメンだった。
「この半年で三号機には何人が接続したっけ?」
凪がアンドロイド受付嬢に問いかけたが、反応は返ってこなかった。舌打ちして、京次郎の方に目配せすると、京次郎は困った顔で笑って言った。
「花子さん、何人だったかな?」
「三人です、社長」
その即答ぶりに、凪はまた舌打ちする。
「花子」と呼ばれたこのアンドロイドは、自分の生みの親である京次郎にだけ絶対服従である。
「いい加減、俺もここの関係者だって、学習して欲しいね」
凪が嫌味を言っても、花子は聞こえないふりをしている。こういうことだけ、このアンドロイドの学習能力は跳びぬけて高い。
「さっきの凪の態度に怒ってるんだよ」
京次郎は取りなすように言ったが、凪は納得がいかない。
「三人の詳細を出してくれる?」
凪が黙りこんだので、京次郎が花子に尋ねた。
「一人は事故で足を失った青年です。二人目はトランスジェンダーの方。三人目は娘に会いに行った暴力団の方です」
花子はPCを叩くわけでもなく、答える。自分の中にデータが収まっているわけだ。こういう時は確かに便利だと、凪も思う。
そもそも依頼者が少ないこともあるが、この三人のことは、凪もちゃんと覚えていた。
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