記憶デバイス  理想的な家族12ー凪

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 事故で足を失った青年とは、二十三歳の青年で、交通事故に巻き込まれ、両足を失った。命を取り留め、リハビリに励み、車いすを自分で操作し、自由に動けるようになった。退院したその日に、凪たちの会社を訪れ、歩いて行きたいところがある、とボディレンタルを依頼した。  場所を聞いたが、「思い出の場所」とだけ言われた。危険な場所ではないとの言葉に、丸一日レンタルした。  不測の事態に備えてGPSを追っていたが、彼の住んでいる町を周っているだけで、特に気になるような場所に行くことはなかった。ただ最後に霊園に行っていた。山の傾斜地に造られた霊園だ。  GPSの点は、そこに長い時間留まっていた。  誰か大切な人が眠っているのだろうか。  確かに傾斜がきつく、細い道しかないその霊園には、車いすで行くのは難しいだろう。  最後にと、その人に会ってきたのかもしれない。 接続(ジャック)解除(アウト)し、本体に戻ってきた彼に、凪は何も聞かなかった。  凪の想像は当たっているかもしれないし、いないかもしれない。どちらにしても本人が自分の胸の内だけで守りたいものだろうと、思ったからだ。  青年は「ありがとうございました」と頭を下げて、帰っていった。ベッドから車いすに移ると、じっと失った足を見たが、それも一瞬で、何か吹っ切れたような笑みを浮かべていた。
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