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「あー、分からん」
京次郎はすでに投げ出し気味だ。
本当は警察に届けるべきだろう、立派な個人情報窃盗罪だ。重罪である。
しかも、ここに入り込んで盗んだとしても、アンドロイド起動中に抜き取ったとしても、素人ができることではない。
重大犯罪に巻き込まれているかもしれないのに、警察に届けることも出来ず、依頼者に訊いてみるわけにもいかない。少なくとも三人中二人は部外者だ。記億デバイスが盗まれたんですけどなどと、安易に言えるわけがない。
凪はこの会社の危うさに身震いした。
「分かった」
凪がそう言うと、京次郎はきょとんとした。
「母さんに訊いてみるよ」
本当は母に頼りたくない。これは最終手段だ。
「母さんって、良子さん?」
「叔父さん会ったことあるの?」
息子である凪でさえ、良子にはなかなか会えない。
「ああ、一度だけ。凪が生まれる前だけど」
「ふーん」
「でも、良子さんって、警察の人じゃなかった?」
良子は警察の人間で、世界を駆け回っている、というのが、世間でも、凪の家でも、認知されていることだ。
だが、それは事実ではないということを、凪は知っていた。
「うーん、でも大丈夫だと思う」
「なんで?」
当然の質問に、凪は考えるふりをした。
「俺が息子だから」
京次郎はまじまじと凪を見ると、「分かった」と頷いた。
「凪に任せるよ」
京次郎が本当に分かって凪に頼ったのか、何も分からなくて凪に任せてしまったのか分からないが、どちらにしろ、自分たち二人ではどうしようもない。
「オッケー」
凪はその夜、久しぶりに母親に電話した。
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