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「返ってきた」
あれから三週間後、凪は小さな記憶デバイスのチップを、ポンッと京次郎に手渡した。
「うおぉぉぉ」
京次郎は絶叫し、小さなチップが手のひらの上で震えた。
「凪!そんな大事なもん、こんなところに置くな!」
「大丈夫だよ、ビニール袋に入ってるし」
つい昨日、母は急に我が家に現れると、凪に記憶デバイスを手渡し、ついでだというように力いっぱい凪を抱きしめてきた。
「家に帰る口実が出来て良かったよ」などと、呑気に笑っていた。
記憶デバイスはある組織に渡っていたらしい。だが、取り返す際に、渡ったことに対する懸念も払拭してきたから大丈夫だと、太鼓判を押された。
更に、「その、依頼者っていう三人には全く関係ないから大丈夫だよ」と言ってくれたが、なぜ盗まれたのか目的は話してくれなかった。
「知らない方がいい」と母は言い、
「叔父さんも?」と凪が訊くと、
「ああ、京次郎くん?」
と懐かしそうに目を細めた。
京次郎は、その違法な会社の社長だ。彼も知らない方がいいなどということがあるのだろうか?
だが、母はあっさり言った。
「うん、知らない方がいい。なんかあったら、またわたしに言って」
それ以上は訊くなということだ。
だが、母がごまかさずにそう言ってくれたのが、凪には嬉しかった。凪が母の正体をぼんやりながら知っているということを、認めてくれていると思った。
「分かった」
母がそう言うなら、大丈夫だ。凪は頷いた。
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