記憶デバイス  理想的な家族12ー凪

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「返ってきた」  あれから三週間後、凪は小さな記憶デバイスのチップを、ポンッと京次郎に手渡した。 「うおぉぉぉ」  京次郎は絶叫し、小さなチップが手のひらの上で震えた。 「凪!そんな大事なもん、こんなところに置くな!」 「大丈夫だよ、ビニール袋に入ってるし」  つい昨日、母は急に我が家に現れると、凪に記憶デバイスを手渡し、ついでだというように力いっぱい凪を抱きしめてきた。 「家に帰る口実が出来て良かったよ」などと、呑気に笑っていた。  記憶デバイスはある組織に渡っていたらしい。だが、取り返す際に、渡ったことに対する懸念も払拭(ふっしょく)してきたから大丈夫だと、太鼓判を押された。  更に、「その、依頼者っていう三人には全く関係ないから大丈夫だよ」と言ってくれたが、なぜ盗まれたのか目的は話してくれなかった。 「知らない方がいい」と母は言い、 「叔父さんも?」と凪が訊くと、 「ああ、京次郎くん?」  と懐かしそうに目を細めた。  京次郎は、その違法な会社の社長だ。彼も知らない方がいいなどということがあるのだろうか?  だが、母はあっさり言った。 「うん、知らない方がいい。なんかあったら、またわたしに言って」  それ以上は訊くなということだ。  だが、母がごまかさずにそう言ってくれたのが、凪には嬉しかった。凪が母の正体をぼんやりながら知っているということを、認めてくれていると思った。 「分かった」  母がそう言うなら、大丈夫だ。凪は頷いた。
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