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私は小さなベンチャー企業に勤めている。
社長の手腕で急成長し、マザーズ上場も果たした。
だから、社長の才能と実力は、誰もが認めているし、尊敬もしている。
けれど……
決断力と行動力の塊のような彼は、彼の指示について来れない者を容赦なく叱責する。
彼の冷やかな叱責が怖くて、社員全員が社長に怯えて仕事をしていると言っても過言ではない。
だから、私は社長が苦手。
だって怖いもん。
そんな社長とお茶なんて……
気が重いながらも、私は社長に促されるまま、店内にあるカフェに入る。
「今日は本当にすまなかった」
席に着くや着かずやで、社長はそう言って頭を下げた。
なんか意外。
こんな風に人に頭を下げるところなんて、初めて見た。
社長の意外な一面に、驚きを隠せない。
「母は、若年性アルツハイマーなんだ」
社長は隣で嬉しそうにメニューを眺めるお母さんをチラリと見て言った。
えっ?
認知症ってこと?
まだ60そこそこに見えるのに。
「だから、失くして困るものは、俺が預かるようにしてるんだけど、そうすると、今みたいに、盗まれたって言って騒ぎ出すから、目が離せなくて……」
それは……
私には、それがどれほど大変なのか、想像することもできない。
「母1人で苦労して俺を育ててくれたから、できれば施設には入れたくはないし、かと言って1人で世話をしきれるものでもなくて……」
私は、ただ無言で頷きながら話を聞くことしかできない。
「それでも、今日は、ほんの少しの気の緩みから、母を見失ってしまって、佐伯さんには迷惑をかけた。本当に申し訳ない」
社長は、再び、頭を下げる。
「いえ、何もされてませんから、もう、頭を上げてください!」
普段、怖い社長からそんなに謝られると、なんだか居心地が悪くて落ち着かない。
「あ、でも、社長、ご結婚なさるんですよね? おめでとうございます。これからは、少し楽になるんじゃありませんか?」
確か3ヶ月くらい前にそんな噂が流れてた。
あんな厳しい人と結婚したら、気が休まらないよねって女子社員同士でこっそり話してた記憶がある。
すると、社長は、ふぅぅっとため息をついた。
「佐伯さんも知ってるのか。あれ、内緒にしてたのに、式場からの電話でバレたんだ。破断になった後のキャンセル料についての電話だったんだが」
えっ!?

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