第13話 新の宿題

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第13話 新の宿題

 新にとっても夏休みの宿題は有意義だった。全然脈絡のない二つの出来事が関係づけられるかも知れない。探偵ばりにそんな感触を得たのだ。その宿題は社会科の自由研究。新は町の消防団について調べたのだ。それは新が密かに描いている自分の将来、最終的には山岳ガイドとしてこの一帯の案内と救助活動を行いたいと言う目標への第1歩だった。  新は町役場や現役の消防団の大人たち、それから消防団OBで、白兎山岳救助隊長にまでヒアリングを行っていた。消防団の歴史、山岳救助隊との関係、それから山岳ガイドの資格、そう言ったことを網羅的に調べて、いわば、自分のステップアップの針路図にしたかった。  現在の消防団や山岳救助隊の役割、それぞれの関係、簡単な歴史はヒアリングで(おおよ)そまとまった。しかしそのヒアリングの中で、消防団の一人から聞いた事が気になった。それは山岳救助隊発足の理由として語られたものだ。 「まあ、ほら、この頃登山ブームもあって軽装備で山に入って遭難する人、多いだろ」 「はい」 「昔登ってたから大丈夫って言うシニアとか、初めてだけど人について行くだけだからとか、結構安直なパターンが多いんだよ」 「はぁ」 「それとさ、自然自体が昔とは違って危険性を増している。昔はこんなに土砂崩れとか法面崩壊とかなかったけど、この頃結構多いだろ」 「ですね」 「温暖化の問題とか、山林開発の問題とか、反対に放りっぱなしになってる山とか、そういう環境面も昔とは違ってるんだ」 「なるほど」 「だから、さっき言った初心者だけじゃなくてベテランでも危険回避できない事も増えてるんだ」 「そうなんですか」  そう言って消防団員は宙を見つめた。 「あれは数年前だっけかな、消防団のエキスパートが雪崩に巻き込まれる事故もあった。当時の消防団のエースだぜ。それでも予測し切れなかったんだ。幸い、子どもだけは助かったんだけどな。それもエースが機転を利かせて咄嗟の手を打ったから辛うじてだ」 「へぇ」 「だから、山の救助にはエキスパートを揃えた方がいいって話になってな。消火活動と兼務じゃ手に負えないし、県警だって範囲が広いからここだけにって訳にはいかないからな」 「なるほど」  新は肯きながら引っ掛かった。ユキのことである。どこかで聞いた怖いことって、そんな系の話じゃなかったか? 子どもだけ助かったってことは、その消防団員は亡くなったんだろう。数年前の子ども…、今、何歳だろう。  疑問を持った新は山岳救助隊長へのヒアリングでこの件を聞いてみた。直接救助活動に当たったと聞いたからだ。しかし隊長からは期待した答は得られなかった。 「まあ、昔のことだからなあ。今じゃよう覚えとらんな」 「その、助かった子どもって何歳くらいですか?」 「助かった方はあんまり見てなかったな。それより助かってない方の救助に集中してたからな」  それはそうだろうけど。 「誰か知りませんか?」 「もうおらんだろうな。広域消防とか医療関係の人が面倒見ただろうけど、どこの誰だったかもこっちじゃ判らん」 「そう…ですか。結局その消防団の人は助からなかったんですよね」 「見つけられなかったんで、認定されたんだ。それよか、これから助ける事の方が大事だからな。救助隊は単なる登山家じゃ駄目なんだ。冬山での遭難も増えてるから、そっちにも明るくないとな。俺たちにも宿題がたくさんだ。キミの宿題はこんなで出来そうか?」  隊長は優しい目で新を見つめる。 「はい。有難うございました」  新は肯く。しかし、消防団のエースだったって人、まだ見つかっていないって、堪らない話だよな…。そして改めて決意した。スキーも相当出来ないと駄目なんだ。それもゲレンデスキーだけじゃなくクロスカントリーとかもやっとかないと。よし、今年の冬からクロスカントリー、やってみよう。  モヤモヤは残ったが、目標の一つは明確になった。そういう意味で新には有意義な宿題だったのだ。  しかし、白兎山岳救助隊長・鴨志田剛には気懸かりが増えた。娘の紗香から聞いたユキの話に、恐らく同じクラスの新が関わると騒ぎになりそうだ。そっとしておいてやれんものか…。
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