第3話 雪女

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第3話 雪女

 そしてまだ雪が残る3月、山形家はこの白兎町に引っ越してきた。ゲレンデやペンション村にも近い小高い場所にログハウスは建っている。冬場は家からスキーを履いたままリフト乗り場まで滑って行けそうなロケーションだ。  中学までは徒歩15分。各学年1クラスずつのこぢんまりとした白兎中学校。新入生の殆どは小学校からの同級生のようでユキだけが浮いている。なので入学式後のホームルームで、ユキはわざわざ転校生として紹介された。1年生の担任、稲葉先生は、一通り出席番号順に生徒の名前を読み上げて返事を確認したあと、改めてユキを紹介したのだ。 「えーっと、一人だけ引越しされて来た人がいるので紹介しますね。山形さん、立ってくれる?」  ユキは立ち上がる。背が高くて小顔、ポニテが凛々しい。 「タカラヅカにでも入れそうなスタイリッシュな感じね。ちょっと自己紹介してね」  ユキは小さく頷く。 「山形 雪 です。長野市から来ました。よろしくお願いします」 「はい。この辺は市内と違って雪が多いからね、幾らお名前がユキさんでも慣れるまで大変と思うけど頑張ってね」  稲葉先生は精一杯の配慮を見せてくれた。クラスメイトも一歩引きながら、そーっと話し掛けた。しかし、日が経つにつれ、クラスメイトは本当に一歩引き始めた。決して苛めなどではない。冷静で殆ど喋らず、しかし運動神経も成績も良いユキのことを次第に畏怖の目で見るようになって来たのだ。その結果、ついたあだ名は 『雪女』 だった。周囲から畏れを抱かれている証拠でもあるのだが、そんなクラスの中で2人だけユキに特別関心を持った生徒がいた。  その一人は、色白で端正な顔立ちが女子に人気の男子、宗清 新(むねきよ あらた)である。新は初めてユキを見た時からデシャヴのような感じを抱いていた。  雪国と言ってもいいこの地域で、『雪』なんて名前、フツーつけるだろうか? いや、何となく一人知っていたような気がする。ずっと前に、どこかでそんな名前を聞いたような…。本当に『雪』なんて名前があるんだってびっくりして、よく無事だったなぁって、『さすがは雪女だ』って思ったような気がする。何だったんだろう。  そしてもう一人は2年前に名古屋から引っ越してきた女子、遠藤 月(えんどう るな)だ。生まれは新潟(にいがた)だそうだが、父親がリゾートホテルに勤める関係で、転勤が多い。月はこの町の子ではないと言う点で、ユキに親近感を持った。彼女は誰とでも打ち解ける賑やかな性格なのだが、それでも町の子とは時々ギャップを感じている。盟友になれそう…、それに自分と正反対に見える性格が却って合いそう、なんだかエキゾティックだし。月は、まるで本物の雪女を見るような関心を持った。  興味はあるものの、新は実際にユキに話し掛けることはない。話し掛けようとすると、他の女子の視線が刺さり、話しかけづらくなる。授業中、指名されて口を開くユキの声を、採取でもするようにじっと聞き取るのが関の山だった。しかし月の方は積極的に出て行った。 「ねえ、ユキ。ユキの家って、野花ゲレンデの近くのログハウスなんでしょ?」  ユキは小さく肯く。 「あそこってウチのお父さんの会社の人が建てたんだって」 「ふうん?」 「5年くらいここのホテルにいたから、もう永住しちゃえって建てたら転勤になったんだって。それも沖縄」  ユキは月を見上げる。瞳に小さな灯がともる。 「だから凝ってるってお父さんが言ってた。入れてもらったことあるんだって。暖炉まであるって本当?」 「うん、本当」 「素敵ねー、一度遊びに行っていい?」 「いいけど」 「やった!」  月は両手を挙げて 「じゃ、今度の土曜の午後。オッケイ?」  ユキは他人事のように肯いた。6f491fa9-dd0b-4b33-9258-9ad4ed733184
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