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第4話 ロケットの写真
約束通りその週末、月はユキの家を訪れた。片流れの大屋根を持つ2階建てのログハウス。色も塗り直され小綺麗になっている。
「お邪魔しまーす」
「あーら、いらっしゃい」
玄関先ではユキと母親が迎えてくれた。
「初めまして。遠藤 月 と申します」
月はきちんとお辞儀をして、手土産に持って来た父のホテルのクッキーを、母の紗香に差し出した。うわ、お母さん、若い…。
「あらーお気遣い有難う。お父さまが西急ホテルにいらっしゃるんだって?」
「はい。なのであちこち渡り歩いてます」
「へーぇ、だから社交的なのね。ウチはみんなこの辺から出たことないから籠っちゃうのよね。山に囲まれてるしね。じゃあ、ユキ、あとでおやつ取りに来て」
「うん」
ユキは2階の自分の部屋に月を案内した。南に面した、ベランダのある部屋である。断熱材は入っているとのことだが、部屋の内壁もウッドパネルだった。まだ木の香りが初々しい。月は深呼吸した。
「あー、きっもちいい!森の中みたい」
「うん。無理言ってこうしてもらった」
「そうなんだ」
月は感心しながらぐるりと部屋を見回す。シンプル、その一言だった。机も椅子も、ベッドも木製だ。
「あー、なんかユキってあたしと趣味合うかも。この感じ大好きよ」
「そ? 良かった」
その時、階下からユキを呼ぶ紗香の声が聞こえた。
「ごめん、ちょっと飲み物とか持ってくる」
「うん、ごめんね」
「適当に寛いでて」
一人残されたユキの部屋で、月はまた周囲を見回した。本棚に参考書やコミックがきちんと並んでいる。整理された勉強机にふと目をやると、
「ん? ロケットペンダント?」
無造作に置かれたペンダントのチャームの蓋が開きかけている。覗き込むと写真らしきが見えた。え? まさか、ユキ、もう彼氏いるの? 大人っぽいし、いても不思議はないか…。年上かな?
こうなるとじっとは出来ない月だ。こっそりと蓋を開け、目を凝らして写真を覗き込む。
!?
お、お父さん? これ、ウチのお父さんの若い頃だ…。え? 月は口をあんぐりと開けた。なんで?
その時、階段を上がって来る足音が聞こえた。月は慌てて蓋を元に戻し、机から離れる。
「ごめんね、待たせて」
ユキはトレイを持って入って来た。ココアの入ったマグが二つに、シュークリームと月が持って来たクッキーが載っている。
「月、甘いの大丈夫だよね」
「え、あ、うん、勿論」
月は少し焦りながら返事をする。するとユキの背後の本棚の上に載っている家族写真のフォトフレームが目に入った。どこかのスキー場で撮ったものらしい。あれ、ユキのお父さん、全然違う人だ…。そりゃそうか。
+++
賑やかに過ごした帰り道、月は少々困惑しながら歩いていた。ウチのお父さん、ユキとどういう関係なんだろう。ユキにはちゃんとお父さんがいる。もしかして本物のお父さんじゃないのかな。じゃあ、ユキはウチのお父さんの…まさか隠し子? って隠れてないけど。
月の妄想は中学生らしく、どんどん膨らむ。
ってことは、あたしとユキは異母姉妹ってこと? それで趣味も合うのか…、いや、でも同い歳だし、どっちがお姉ちゃんだか誕生日を聞かなきゃ判んない。一人っ子の月は勝手な期待に胸を膨らませた。
+++
その夜、月はその日に撮ったスマホ写真を、帰宅した父、遠藤 圭介(えんどう けいすけ)に見せた。
月とユキの2ショットだ。どういう反応になるのか、イチかバチかだ…。圭介はごく自然に唸った。
「ふうん、これがあのログハウスに越して来た子? 綺麗なお嬢さんだねー」
あれ? 至って普通のリアクション。月は父にカマをかける。
「名前はユキって言うの。お父さんみたいに背が高いのよ。長野の善光寺の近くから越して来たんだって」
「へぇ、地味な引越しだね。あっちの方が便利なのにねぇ」
ううむ。反応が薄過ぎる。やっぱ、他人の空似ってヤツかな。それ以上のことを言い出せない月は、追求の手を一旦止めた。
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