第5話 パパ違い

1/1

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ

第5話 パパ違い

 そりゃ世界には自分とそっくりさんが3人居るって話だけどさ…、(るな)は翌日になってもユキのロケットペンダントの件を引きずっていた。昨日の父の態度では何の解決にもならない。何しろ姉妹が出来るかどうかの瀬戸際なのだ。裏から攻めて揺さぶりをかけなきゃ。 「ねぇ、お父さん、自分とそっくりの人って会ったことある?」  圭介は怪訝な目で娘を見た。月は焦る。明らかに怪しまれてる…。 「ほら、世界には自分とそっくりさんが3人居るって言うじゃない? あたしはまだ会ったことないんだけどさ、会ったら意気投合して、そのままカラオケ行っちゃうかもだけど、お父さんはそれなりに生きてるんだからあるかなって思って」 「あー、そう言えば」  お? 掛かった? 月は父の方へにじり寄る。中学生の娘にしては父親への破格のサービスだ。 「昔さ、ちっちゃい子に、その子のお父さんと間違われかけたことあるなぁ。月も一緒に居たんだけど覚えてない?」  生憎、月には記憶になかった。 「それ、どういう話?」 「えっとね、新潟のスーパーでね…」  父は記憶を探るように空中をじっと見る。 「そうそう、カゴ持ってレジに並ぼうとしてたらさ、レジの方から小さな女の子が走って来てね。お父さんの目の前で止まって、パパって言いかけて、大きな目でお父さんをまじまじ見上げるわけ。迷子かなって思って声掛けようとしたらさ、急にクルっと回ってまた走ってってさ、レジの向こうで荷物詰めてる男性に飛びついてた」  圭介は月を見る。月はじっと聞いている。圭介は続けた。 「ははーん、あの子、自分のパパと間違えて走って来たなってね。その男性のことは遠目でしか見えなかったけど、なるほど同じくらいの背格好だし、頭の形や髪型も似てたから、もしや顔も似てたのかなってね」 「ふうん」 「それ位かな、そっくりさんが居たかもって思ったのは」  はぁ。これじゃ何の足しにもならないや。そもそも新潟の話だなんて、ユキには関係ないし。月は気落ちした。  ユキはなんで自分よりずっと年上の、どう見ても彼氏の年齢には見えない人の写真を大切に持っているんだろう。小学校の先生とか、かな。ユキ、年上の大人を好きになっちゃったのかな。幾ら何でも10歳以上違うのはキツいんじゃない? それともユキは本当に『雪女』で、どこかで白い息を吹き掛けて殺めてしまった人の写真を、懺悔の意味で入れてるのかな。  妄想ストーリィは次々出て来るが、決め手はどこにもない。とりま、ウチのお父さんとは関係なさ気だし、そのうち、あのペンダントをして来た時に、中見せてってせがんで、話を聞くしかないか。やっぱ一人っ子は続くな。  月は『飽きました』とばかりに父親の傍を離れた。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加