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「──というのがまあ、アルベール・ド・ラパンがアラキ城で起こした大盗難事件のあらましだ……つまり、この僕がやってのけたね」
その夜、ふらりとやって来た我が友が酒の肴に語ってくれたのは、そんなよく知られた事件の裏話だった。
「それはまた大胆かつ不可思議な犯罪だ……しかし、君はどうやってそんなことを成し遂げたんだい? そんな人に見られることもなく、大量のお宝を中州の城から盗みだすだなんて……」
「なあに簡単なことさ。僕は盗賊であるとともに魔術師でもあるんだからね。魔導書の魔術を使えば、人の目を欺くことなど容易いものだ」
いつもの如く、頭を捻りながら私が質問をすると、それにも彼は上機嫌に答えてくれる。
「まず初めに僕の行ったことは、一介の飲兵衛に身をやつして、衛兵が行きそうな場末の飲み屋であるウワサをわざと流すことだった……アラキ城襲撃のため、アルベール・ド・ラパンが近所に移りすんで準備を進めている…とね」
「わざとウワサを? 自分が不利になりそうなのになぜそんなことを?」
私は小首を傾げながら、怪訝な顔で質問を重ねる。
「逆だよ。そうやって僕…いや、ロッシーニという架空の人物に注意を向けさせることで、城の方の警備を手薄にしたのさ。我が友ゼニアール君は、あれでなかなか手強いからね」
だが、彼は愉快そうに首を横に振ると、上機嫌に先を続けた。
「後は簡単。予告した夜がやって来たら、僕はネズミに変身して、堂々と裏口から出てアラキ城へと向かった。魔導書『ゲーティア』にあるソロモン王の72柱の悪魔の内序列6番・盗賊の公爵ヴァレフォールの〝人を動物の姿に変える〟力を使ってね」
「ネズミに変身して!? ……まあ、それなら確かに気付かれないだろうけど……」
なんとも不公平な反則技なのであるが、魔導書の魔術に精通した彼は、そんな『小アルベール』以外の魔導書も使うことができるのだ。
「ま、実際にはネズミに見えるってだけだけど、そうして橋を守る衛兵達の間を潜り抜け、中洲の城へ辿り着くと、施錠された城の門は『ソロモン王の鍵』にある〝水星の第五のペンタクル〟を使って一瞬の内に開けた。ちなみに財宝のある各部屋の鍵もね」
これまた反則としか言いようがないが、魔導書の記述通りに彼が製作した、その「閉ざされた扉を開ける」力を宿す金属円盤も、彼愛用のマストな仕事道具である。
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