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それから二日と経たず、街に放たれた密偵達によって、ある情報が捜査部にもたらされた。
アラキ城襲撃の準備をするため、すでにアルベール・ド・ラパンと思しき人物が、その近隣に家を借りて潜伏しているというのだ。
「ウワサといえど……いや、他愛のないウワサだからこそ、そこに隠しきれぬ真実が含まれているやもしれぬ。その男を捜し出すのだ!」
早々、ゼニアールは部下達とともにアラキ城周辺を密かに捜索し、そのウワサの特徴に該当する人物を一人見つけた。
名前はロッシーニ・ボルトン。近所での聞き込みによれば、投資で財を成した資産家の息子で、都会の喧騒を避けるために静かなこの地に別荘を購入すると、悠々自適に暮らしているという高等遊民であるらしい。
「確かにヤツのようにも見えるな……」
セイン川沿いに建つ、その個人まりとした白い土壁の家を見つけたゼニアール部長は、さっそく向かいのビストロから張り込みを始めると、出て来た男を遠目に眺めて品定めをする。
口髭を綺麗に整えた痩せ型の青年で、黒いジュストコールに白のシャボ(※襟飾り)を身に着け、黒い羽根付き帽を被ると片眼鏡をかけるという、なんともキザな伊達男ぶりであるが、その恰好もよく聞くアルベールの姿の一つだ。
「引っ捕らえますか?」
部下のジュディが、座った窓際の席で青年を睨みつけながらゼニアールに尋ねる。
「いや、まだヤツであるという確証はない。人違いでは赤っ恥もいいところだからな。もう少し監視して、周辺も洗ってみよう……」
だが、逸る部下をそう諫めると、ゼニアールは慎重に捜査を進めることに決めた……。
ところがである。それから数日、付きっきりで彼と彼の家の監視を続けたが、これがなかなか確たる決め手というものを見出すことができない。
容姿もよく聞く彼のものだし、最近越して来たというのもウワサ通りであるが、毎日、付近の森を散歩したり、カフェでお茶を飲んだり、はたまたセイン川で釣りをしたり…… 特に不審な動きというものは見られなかったのだ。
そこで、なんとかボロを出さないものか? と、直接、ゼニアールが接触してみたこともあった。
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