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「──どうです? 釣れますかな?」
「ああ、こんにちは。いやあ、なかなかですねえ」
散歩をしている地元住民を装い、いつものように釣りをしていたロッシーニにゼニアールは声をかける。
「あまり見ない顔ですが、観光の方ですかな?」
「いえ、最近この辺に越して来たんです。そちらも初めてお会いしますが、お家はこのお近くで?」
カマをかけてみるゼニアールであるが、ロッシーニは笑顔でそう返すと、反対に勘ぐるかの如く訊き返してくる。
「え、ええ……近所と言ってもちょっと離れているんですがね……お邪魔をしても悪い。それでは、良い一日を」
「はい。あなたも良い一日を」
なんら動揺する様子もなく、のんびり釣り糸を垂らしながら屈託のない笑顔を見せるロッシーニに、バツの悪くなったゼニアールは逃げ出すようにその場を後にした。
「まあ、いい。もしもヤツが本当にアルベールならば、犯行時に必ずや何か動きを見せるはずだ。逆に見張っていることで盗みを働けぬのならば、それもそれで別に良し。予告通り必ず犯行を行うというヤツのプライドを打ち砕くこともできるのだからな」
なかなか捜査が進まぬ中、ゼニアールは若干の方針転換をしつつもより監視を強化することとする。
「じゃが、もしその読みが外れていたらどうする? じつは他に本物のアルベールがいて、予告した日にわしのコレクシオンを奪いに来たりしたら……」
しかし、当然のことながら、狙われている当事者のナジャンはそんな心配をしてゼニアールに訴えかける。
「わかっております。あなたの城にも警備の衛兵を派遣します。なに、幸いにもアラキ城は四方を川に囲まれ、唯一の通り道である橋以外は断崖絶壁。橋を押さえれば、入ることも出ることもできますまい。念のため、城内にも衛兵を配置しておきましょう」
その不安にもゼニアールはぬかりなく、そうして万全の体制を整える中で、ついに予告された日の夜がやってきた。
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