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「──相変わらず動きはないようだな……」
深夜、ロッシーニの家を密かに包囲し、ずっと見張りを続けていたゼニアールがビストロの影で呟く。
夕方、家に帰って来たロッシーニはそれ以降、一度も外出することはなく、夜が更けると灯りも消して、それからはずっと静まり返ったままだ。
「裏手も問題はないな?」
「はい。特に報告はありません」
少々苛立ちを覚えながら、ゼニアールは部下のジュディにも尋ねてみるが、家の裏口からこっそり抜け出すというような動きもないようだ。
「城の方の状況はどうだ?」
「はい。そちらからも特に報告はありませんね」
どうやらアラキ城も、同様に静かで平穏そのもののようである。
「うーむ……読みが外れたか。それとも、この厳重な警戒を見て、さすがのアルベールも罠に飛び込んでまでお宝を手に入れるのを諦めたというところかな……」
その後も特に変わったようなことは起きず、ゼニアール達はどこか拍子抜けな思いを抱いたまま、翌日の朝を迎えることとなった。
「もうすっかり夜が明けてしまった……ま、ヤツの犯行を防げたとなれば、とりあえずは我らの勝利と言ってもよかろう……」
川面を染める眩い橙色の朝日を眺めながら、若干、残念な気持ちに内心なりつつも、ゼニアールがそう呟いた時のこと。
「た、た、大変です! アラキ城が! し、城の中の財宝が!」
城の警備に就いていた衛兵の一人が、血相を変えて駆け寄って来た。
「どうした!? 何があった?」
「や、やられました! 城の中はスッカラカンです! いつの間にかすべての財宝がなくなっております!」
嫌な予感とともにカネアールが尋ねると、その部下は息吐く間もなくそう答える。
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