風味を盗む

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風味を盗む

テーブルや椅子をアンティーク調なものに統一した、洗練された内観のレストランで、俺は優雅に食事を楽しんでいた。窓の外に見える夜景がとてもきれいだ。 品のよい形のグラスに注がれたビールを飲みながらパテをつまむ。肉の食感とスパイスの風味がビールに彩られるような気がして、すぐに二つ目を口に入れてしまう。 さすが最近巷で話題のカジュアルなフレンチを楽しめるレストランだ。感心しながら店内を見回すと座席はあらかた埋まっていたが、高い天井と間隔を開けた席の配置のおかげでゆとりがあるように見える。 評判通りデートで利用する客が多いようで、二人組の男女が多かった。連れ合いがいないのは俺くらいのようだ。 三年付き合った彼女と別れて早二年。あと一年で齢三十を数えることになるが、別段寂しいなどと思ったことはない。 なぜなら俺はある能力に恵まれたからだ。 それは何か。説明する前にメインディッシュを選んでおこう。メニューを見ると日替わりの肉料理と魚料理が一つずつ掲載されていた。 牛すじ肉の赤ワイン煮込みと、白身魚のソテー。どちらもうまそうだが、一人で両方頼むと腹は膨らむが財布が薄くなる。 悩んでいると、隣の席の男女の前に牛すじ肉の赤ワイン煮込みが運ばれてきた。ゆらめく湯気が俺の鼻に肉とソースの濃厚な匂いを運んできて、胃袋を刺激する。 ちょうどいい。ちょっと盗み見、もとい味見させてもらおうか。
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