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今夜は満月。お月見だ。
そして、子どもがお供え物を盗む日でもある。
と、初めて聞いた時は僕もとても驚いた。え? と聞き返した声は予想外に教室に響き渡って、何でもないと弁解のジェスチャーを繰り広げなければならなかった。
けれど詳しく知れば何のことはない。お月見泥棒、という行事。収穫に感謝し、それをみんなで分け合って祝う。古くから少しばかり形を変えつつ、今も続く地域のちょっとしたお祭り。
去年引っ越してきた時にはもう十五夜を過ぎていて、今年が初めての体験だった。お供え物を出す家は提灯を出す。子どもたちはその目印を頼りに家を訪れ、お供えもの(主にお菓子だ)をもらう。その時は時期の早いハロウィンみたいと思っただけだったけど、いざ日が近くなると心が浮きたった。
地元に寄り添うスーパーや小さな菓子屋ではお月見泥棒用にと様々なお菓子が積まれ、「用意した?」「したわよー」と母親たちの立ち話にも花が咲く。クリスマスやお正月が楽しいのも半分はこういう空気を吸っているからだ。
けれど今日、僕の家の玄関に提灯は灯らない。
数日前から分かっていたこと。それなのに今、それがひどく心臓にのしかかった。
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