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この町の家全てがこの行事に参加するわけではない。何もしない家があれば、お供え物を山ほど積むだけの家もある。八百屋のおばあちゃんは僕が知っている後者のうちの筆頭で、沢山準備するわね、と気合を見せていた。全ては任意のもとに行われ、参加の有無やその仕方にあれこれ口を挟むのはタブーだ。お供え物を出さない家の子どもがお供え物をもらう。それだって当然、いい。
関矢もそれは知っている。だからあの言葉はただ、なんていうか、ちょっとした軽口なのだ。お月見泥棒という名前とかけただけの。
非難ではなかった。嫌味でもない。関矢がそういう奴ではないと、僕はよく知っている。転校してきた僕に真っ先に話しかけ、お父さんがいないと知っても「へー」と誰より淡白な相槌を打った。渡辺の「気にするな」はつまりそういう意味だ。
「――行かないの?」
「!」
息が詰まる。肩が跳ねる。
「、え、っと……?」
反射で上がった視界には、こちらを覗き込むようにした真ん丸の目があった。
「あっちだよ、住宅街」
ひょいと顔を戻したのは女の子だった。僕より少し高い身長。肩の上ほどの黒い髪には輪っかが光る。隣の学校の子だろうか。
「行くんじゃないの?」
方向を示していた指先が僕のポケットからはみ出したエコバッグを差す。
「あ……うん」
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