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いつの間にか反対の方へ歩いていたらしい。灯りは二階から見た時より離れて、遠い世界の出来事に思えた。約束の一人が集まらなくても騒ぎになることはないだろうけど、手ぶらで帰るのは、やっぱりおかしい。どうしよう。膨らんだポケットに触れると、女の子が声を上げた。
「それ! 防水?」
「防、水……?」
どうだろう。ポケットに手を入れると、予定とは違う物が出て来た。ナイロン一枚でできた方を持ってくるつもりだったのに。
「保冷だけど、防水ではない、と思う」
チャックを開けて女の子に見せる。少し分厚いけれど夏は重宝する、保冷シートを内側に備えたエコバッグ。そのおかげで雨が降っても中までは濡れないから、ある意味防水ではある、かもしれないけど。
「ごめん、ね」
事情は分からないが期待された分申し訳ない気分になって、言葉だけで謝ってしまう。
がしり。
けれど力強くエコバッグの縁を両手で掴んで広げた彼女は、きらきらした目で僕を見た。
「ちょうどいい! あなたすごいわ!」
「あり、がとう」
「一緒に行こう」
「どこに?」
「こっち!」
だからどこに!? 力強く手を引かれて、喉までせり上がった驚きも疑問も混ざって胃に落ちていった。
握られた手の温度はどちらのものだろう。皮膚が重なったところだけが熱く、シャツをすり抜けて肌を撫でていく風は涼しい。
暗い方へ、人のいない方へ。
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