スティール

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 僕にはさやかという幼馴染がいる。家が近所で、親同士も面識があった為幼い頃からよく一緒にいた。とても明るい子で彼女がいると周囲のみんなも楽しい気持ちにさせるような性格で、彼女の周りにはいつも多くの者たちがいた。人見知りが激しく、人前に出ると固まってしまう僕のことをよく気にかけてくれて彼女がいてくれたからこそ出来た経験も多くあった。そんな彼女に惹かれていくことは至極当然だと思えた。中学生になり周りも色めきだしてくると僕もさやかのことを一人の女性として意識するようになる。    この能力に気付いたのはそんな頃だった。それ以前ももしかしたら発動していたのかもしれないが、なんとなく感じだしたのはこの頃だった。さやかは中学では美術部に所属しており、それまでまともに絵を描いている姿を見たことが無かったので周りのみんなも驚いていた。コンクールに出品する作品を部活で作ったといい、それを僕に見せて鼻を膨らませながら息巻いていた。 「聡っ! 見てよこの出来栄えを。いいでしょー?」 「ん? あぁ……いいね。とてもよく描けているんじゃないかな?」 「何よその薄い反応は! 私のこれまでの絵画人生で最高傑作なんだよ!」 「ごめんごめん。でもさやかの絵画人生ってまだ始まったばかりじゃないの?」 「そうなのよ! それなのにこの出来なのだ!」  さやかは中学生にしてはまだ幼さの残る顔立ちをしていて、行動や言動もそれに倣っていた。そんな彼女の作品は残念ながら受賞する事が出来なかった。その時の彼女の落ち込みようは相当なもので僕は何とか慰めてあげようと、その落胆が無くなる様にと想いを込めて背中をポンとたたいた。  その瞬間彼女はぼうっとしだし遠くを見つめるような表情になった。その状態がちょっとの間続いたかと思うと急に表情が戻り出し、コンクールの事など無かったかのように振舞いだしたのであった。その時は彼女の落胆が消えたことに安堵し深く考える事はしなかった。  その後何度か同じような状況に遭遇し徐々に自分の行動がそうさせているのではないかと思うようになっていった。しかし、まだこの頃は能力うんぬんよりも自分は癒し系の人間なのかもなといった程度の認識だった。
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