スティール

3/7
前へ
/7ページ
次へ
 能力の自覚に至ったのは真白さんとの出会いによってだった。当時高校へ上がったばかりの僕とは四つ離れていて大学生の女性だ。授業が終わり校門くぐり、ややあって長い黒髪の女性の視線が目に入った。目が合うと僕の方へやってきて言った。 「中島聡くん?」 「えぇ、そうですけど?」 「良かった。いきなりでごめんね、私は西山真白。びっくりするかもだけど、君不思議な力を持ってるよね? 人の感情をコントロールするみたいな」  本当に唐突な会話だったが、不審に思うよりも『不思議な力』というワードに興味が惹かれた。確かに僕には人を癒す力があると感じていた。その事を話してみると真白さんは、その長い黒髪を揺らしながら大きく頷いて見せた。 「やっぱりそうだ。それはね、人の感情を盗む能力なんだよ」  真白さんが言うには、この能力の発動条件は相手の感情に対して盗む意思を持って触れる事だという。過去を振り返ってみてもさやかの件を含めそういった行動をとっていると感じる。真白さん自身も同様の能力をもっているらしくバイト先で知り合ったさやかに、自分の彼氏は人の悩みを解決するのが得意だと聞いたことがきっかけで僕を訪ねてきたらしい。  真白さんは自身が把握している能力についていろいろと話してくれた。今まで無自覚的に行っていた行為に何か特別な意味を付与されたような感覚になった。こんなに人見知りで冴えない僕だけど何か役に立つことが出来る。そう思うと自然と気持ちが高揚してくる。 「ただね、この能力は感情を盗み取るだけではまだ不完全なんだよ。大切なのは――」 「――真白さん! いろいろ教えてくれてありがとうございます! それじゃ!」 「さ、聡くんっ!」  僕は何か話を続けようとしていた真白さんの言葉を遮りその場を立ち去った。自分の能力を自覚してしまった以上早く誰かを救ってあげたい、自分の価値を見出したいという気持ちでいっぱいだったからだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加