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それからというもの、人とのコミュニケーションに消極的だった僕はこの能力で多くの人を救ってあげたいとの思いから積極的に人と関わる様になっていった。そうすると不思議なもので周りの反応もそれに呼応するかのように変化しだし、僕はクラスの中心的な人物になっていった。
「聡、今日時間ある? ちょっと話聞いてもらいたいことがあるんだけど」
「今日? んー今日はちょっと予定が……。何かあるの?」
「あ、いや、何かって言われても……ちょっと話を聞いてもらいたいなって」
「そんなに深刻なことじゃなければ今度でもいいかな?」
「深刻じゃない事もないん――」
「――おーい! 聡! 早くしろよ!」
「おー! さやか悪い僕行かなきゃ! また今度話聞くよ! じゃ!」
何か言いたげなさやかを横目に僕は友人の元へと駆け寄る。失恋で悲嘆にくれているという友人を励ます会に向かう為だった。このところ僕はそういった会に積極的に参加していて、そういったところではみんなが僕のことを受け入れてくれ頼りにしてくれていた。僕はみんなから必要とされる感覚を求めて次から次へと能力を活用していた。
そうやって充実した日々を過ごしていると真白さんが僕の元を訪れてきた。
「聡くん、さやかちゃんから聞いたんだけど君は能力をでたらめに使いまわっているようね?」
「でたらめにって失礼な言い方ですね。僕は救いを求める人達を自分の力で楽にしてあげているんですよ。それをでたらめだなんて……」
「君は本来の能力の意味を理解していない……そんな使い方していても一時的な救いにしかならないわ」
「そんなことない! 僕はこの能力を正しく使えているんだ! 実際僕の周りには人が集まるようになった。僕は必要とされているんだ! この能力を使う前では考えられなかったことだ。そんな僕が間違っているわけなんてないんだ!」
「……聡くん。君は正義の味方なんかじゃない、私から言わせればただの泥棒だよ……」
真白さんは軽蔑とも哀れみともとれる顔つきをしながらそう言った。その表情が僕の神経を更に逆なでる。自分がこれまで築き上げた状況を――自分がこの世界にいてもよい理由を否定されているようだった。何も理解できない哀れなピエロを見るかの様なその顔を僕は目一杯睨みつけて叫んだ。
「僕は間違ってなんてない! 間違ってなんてないんだ!」
僕は睨むことをやめずに真白さんの脇を通り抜ける。道すがら頭の中で真白さんの言葉が反芻される。――ただの泥棒だよ――僕はみんなを幸せにしている。これのどこが泥棒だというのだろうか。百歩譲って泥棒だとしても石川五右衛門にしても、ねずみ男にしても盗み取ることで他の誰かを幸せにしている。僕だってそうだ。盗み取ることで苦しんでいる人を幸せにしている。ある意味では正義の味方といったって差し支えないはずだ。――僕は悪い事なんてしていない、しているはずがないんだ――その言葉を放った真白さんの表情をかき消すかのように僕は心の中で繰り返し呟いていた。
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