スティール

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「さやか、体調はどう?」 「まだまだ本調子ではないけど、先生もこの調子で頑張れば退院もみえてくるだろうって言ってたから私はがんばるわよ!」 「おっ、さやかちゃんその感じでがんばろー!」  悲しみを取り戻し僕が病室へ向かった日からしばらくしてさやかは目を覚ました。悲しみを乗り越え、それを力に変える事が出来たからこそだと自分では思っている。それがさやかに生きる力を与えたのだと。その後さやかどんどん回復傾向に向かっていった。この日僕と真白さんはさやかの病室を訪れており、さやかの回復をみて共に喜び安心していた。面会も終わり病院を出て真白さんと並んで歩いている時に僕は質問してみた。 「真白さん、でもどうして僕に悲しみの感情を返す事が出来たんですか?」 「あぁ、君には言ってなかったけど感情を盗まれる時に体をこわばらせたからか、盗まれたくないと思ったからかは分からないけど君を戒める感情を完全には盗まれなかったみたいなんだ」 「そんな防御方法があるなんて……それに盗んだ感情ってストック出来るんですね、僕知りませんでしたよ」 「そこがこの能力の真価を発揮させるところなんだ。無くした感情が成長につながる感情だと知ってもらう為のね」  そう言って真白さんはくすくすと笑いだした。それにつられて僕は声を出して笑った。 「そういえば以前言っていた、僕が泥棒ってどういう意味ですか?」 「君はね、困っている人の感情を盗み取って正義の味方に感じていたと思う。でもね、感情を盗み取る事で相手の成長の機会も奪ってしまっていたんだよ」 「成長の機会……」 「そう。ただ単純に自分が人の為になっていると思いたいが為だけに感情を盗んでいたんだ。だからね……泥棒って言ったの」 「やっぱりそうですか……悲しみの感情を返してもらった時そんな風に思いました」 「そうか……分かってくれば嬉しいな」  秋から冬への季節が移ろうこの時期は日が暮れてからの冷え込みがぐっと強く感じられる。その中で二人で歩きながら更に僕は言った。 「僕の能力が人の成長を促していくことが出来るように頑張ります!」  真白さんは優しく微笑んだ表情で僕の方を向いてくれた。                                                         (了)
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