harness 2

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harness 2

 米良は酷く動揺した。部下の鮎原に大変なものを見られてしまった。 「あ、あゆはら」 「大丈夫です、誰にも言いませんよ」  そう言いながら鮎原はゆっくりと米良の方へ近付いてきた。いつもの様に、真面目な表情で。  鮎原は生産課の中でもひときわ真面目人間で通っている。夜勤や休日出勤などざらなシフトでも、欠勤したのは幾日も無いだろう。休むのは、同居している祖母の介護サービスに付き添わなくてはいけない時くらいで、それも自己理由では無い。  その鮎原が、米良の身体を拘束しているボディハーネスに触れた。 「誰にも言いません、米良課長」  鮎原の指が、ハーネスのベルトをつっとなぞる。ぴんと張り詰めた胸ベルトを通り、それと繋がるウエストのベルトを摘まんだ。ウエストのベルトからシャツガーターを固定する為のベルトへは、米良の股間を経由している。シャツも下着も身に着けているとはいえそれ以上は、その、ふ、不謹慎ではないか。 「鮎原……、止めてくれ」 「米良課長、背広の下はこんなにいやらしいものを着けていたんですか」 「いや、これは。今日初めて、その」 「へえ」  鮎原の指に力が入り、股間の脇を通る伸びの良い素材のベルトを軽く引く。米良は震える。それはまずい。 「本当に、そういう目的では無いんだ。シャツが弛まない為の、」 「そういうって? そういう目的に使うものだとご存じなんですか?」  鮎原の術中に嵌った米良はますます狼狽える。逃げ場を失った米良の背中にロッカーが当たり、ガンと音を立てた。 「これは本来どういう目的で使うものですか? 教えて下さい、米良課長」  パチンと、鮎原の指がベルトを弾いた。  深夜の工場はフル稼働だ。省庁からの指示で食品包装の表示内容が変更となり、大急ぎで新しい包装資材に変更しなくてはならなくなったのだ。どこの食品会社からも無理やり注文をねじ込まれており、役職関係無く出られる者は出るように、とは工場長直々のお達しである。  米良は幾分ぎこちない動きで製造ラインを動かしていた。斜め前のラインには鮎原がおり、彼は至って真面目に仕事をこなしている。  駄目だ、僕がこんな事でどうする。米良は軽く頭を振った。意識しているのは僕だけで、他の人には気付かれちゃいない。鮎原だって誰にも言わないと言っていたじゃないか。普通にしていればいい。いつも通りに。 ──出来ない。普通にしようと思えば思うほど、ボディハーネスの人工皮革がしなやかに肌を締め付ける。 鮎原は米良に、シャツを脱げと言った。 「米良課長はご存じなんでしょう? これの正しい使い方」  米良がECサイトに掲載されていたモデルの着用例に続きの画像があるのを知ったのは、今朝の事である。正しく着用出来ているか確認をしようと一枚目の画像を何気なく横にスワイプしたところで愕然とした。  恐らくこちらが本来の使用目的なのだろうと、米良は腑に落ちる。箱が届いた時に感じたエロティックな佇まいは、紛れもなくフェティシズムのそれだったからだ。シャツを格好良く着る為になどと自分を正当化しようとしても手遅れなのだと米良は悟った。  米良はこれを着けてみたいと思った。そういう目的で。  ロッカールームで、鮎原はこう米良に指示をした。 「米良課長、シャツの上から身に着けても勿論結構だと思います。良くお似合いですし、着こなしにも一役買ってらっしゃる。ですが、もっと課長に相応しい着用方法がありますね? さあ、やってみて下さい」  鮎原はロッカールームのドアの鍵をカチャリと閉めた。二人の他は誰も入って来られないという意思表示であろう。米良は観念した。  ボディハーネスの上半身を脱いで、シャツのボタンをひとつずつ外していく。良く筋肉の付いた胸が露わになった。シャツの裾を抜き取れば、下半身はボクサーパンツ一枚だ。シャツガーターから股間を繋ぐベルトが強く食い込むのを米良は感じる。決して芯に触れている訳でも無いのに中心が盛り上がっていくのを、鮎原はじっと見つめていた。 「鮎原……頼む、見ないでくれ」  米良の声は消えそうな程に小さい。だが羞恥心に苛まれる米良に対して、鮎原の視線が揺らぐ事は無かった。 「続けて下さい」  米良は脱いでいたボディハーネスの残りを今度は素肌に直接身に着けた。股間が引っ張り上げられ、否応なしにそれの存在を身体に覚えこまされてしまう。 「これで良いだろうか」  米良が少しでも動こうものなら、その冷たく引き締まった刺激をダイレクトに米良の肌へ伝えてくるのが人工皮革のベルトだ。大柄の体躯を強張らせ、米良は鮎原の許可を待つ。 「最高です、米良課長」  かくして米良は、作業着の下に鮎原からの拘束を纏い、何食わぬ顔で粛々と仕事を続けている。時折感じる鮎原の舐める様な視線に、ぞくりと身の奥を震わせながら。     fin.
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