洗濯日和

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私はもともと一人でいるのが嫌いじゃなくて、近寄るなオーラを出している自覚もあったから、話しかけてくる人が少なくても寂しくはなかった。それは大学生になっても変わらずで、仲のいい子は片手で数えて余るほどの同性だけだ。 けれど、そんなオーラを気にも留めず、気さくに話しかけてきたのが、たまたま同じ講義を受けていた皇輝だった。異性の友達なんていたことがなかったから驚いたし戸惑ったけれど、そっけなくしていれば他の人と同じように離れていくだろうと思っていた。 でも、彼は違っていた。だんだん会話が楽しくなってきて、友達と呼んでもいいものかどうか迷い始めた時だ。 「あの……さ。(はやし)さんのこと好きなんだけど。俺と付き合ってくれない?」 珍しく神妙な顔をしていると思ったら、そんなことを言ってきた。もしかして、と頭に過ぎることがあっても自意識過剰だと打ち消してきた疑念だったから驚いたと言うより、テスト問題の答え合わせをしているような気分に近い。 「……ごめん。付き合えない」 恋に恋していた時代に、好きだと言われただけで舞い上がり、勘違いをし付き合い始めてから相手が苦手なタイプだったと気づいたことがあった。 過去に唯一経験したその恋のせいで、ますます人に甘えることに臆病になってしまった私は、皇輝の申し出を断った。今の好意が恋愛感情とイコールなのか自信がなかったからだ。 「分かった」とだけ言った皇輝は少し寂しそうで、もう今までのようには話せないだろうと覚悟をしていたけれど彼の態度が変わることはなく、また楽しい時間が戻ってきた。 「諦めようと思ったけど、やっぱりまだユーミンが好きだから、もう一回だけいい?俺と、付き合ってくれませんか」 それからしばらくして女友達と同じようにあだ名で呼ばれるようになって、最初の告白からは一年が過ぎようとしていた時、皇輝は言った。私の好意の形は一年前とさほど変化していなかったけれど、自然と口が動いていた。 「……私で………良ければ」 「やった!……夕実って呼んでいい?」 皇輝は顔をくしゃくしゃにして笑った。私はその時、テスト問題なんて、こんな風にしてゴミ箱に捨ててしまえと思った。 「うん……ありがと。ヒコーキくん」 私がいつものようにあだ名で返すと「皇輝でいいよ」と言われて変に緊張したのを覚えている。 そうして私たちは付き合い始めた。食の好みがよく似ていて二人でシェアして感動を分かち合うのが何より楽しかった。 自分に自信がなくて、写真を撮るのが大嫌いだったはずなのに、皇輝と撮るのは嫌じゃなかった。寧ろ、撮りたいと思うようになっていて、気づけば彼に恋をしていた。すっかり追いかける側になっていたのだ。 デートの後、帰宅してから、どこがいいのか自己分析しても答えが出なかった時には、ミイラ取りがミイラになるってこれか……と妙に納得してしまった。
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