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四人家族
お仏壇の置いてある暗い和室に、兄ちゃんが一人で座っている。
いつもと同じように、朝に炊いたご飯を小皿に盛って、お線香に火をつける。
はらりと落ちた灰のそばで、パンダのぬいぐるみが仰向けに寝ていた。
静かに合わされた掌。
パパとママの隣に増えた、一枚の写真。
今日は窓の外に雪はないけれども、冷たい空気は壁をすり抜け手を伸ばしている。
「楓」
誰もいない和室に兄ちゃんの声が染みて消える。
兄ちゃんはボロボロにひしゃげて壊れた緑色のミニカーをポケットから取り出し、パンダの隣に置いた。
「楓、おいで」
今度は振り向いてぼくを呼ぶ。
柱の影から見ていたぼくは、和室におずおずと裸足で踏み入れた。
「痛いか?」
「大丈夫…。兄ちゃんは?」
「平気だ」
頭にぐるぐる巻かれた包帯は、兄ちゃんとおそろい。
ぼくは、兄ちゃんの隣に帰ってきた。
いつものように二人で手を合わせて目を閉じる。
ねぇ、パパ、ママ。過ごした時間は少しだったけれど、ぼくたち四人は本物の家族だよね。
だからもう少しだけ、兄ちゃんと一緒にいることを許してくれる?
パパとママがにっこりと笑い返してくれる。
その隣に一枚増えた写真は、兄ちゃんが置いてくれたもの。
ぼくもすっかり忘れていたけれど、満開の桜の下で初めてパパと兄ちゃんに会った時に撮った、四人が揃った写真だった。
ー 完 ー
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