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雪が降る
***
目の前を大きなタイヤが走り抜ける。ダンプカーは鼻の中まで黒くなっちゃいそうなガスを撒き散らして、信号を右に曲がった。
だぶだぶのパーカーのポケットに手を入れる。カツンと硬い感触。宝物の中から一つだけ持ってきた緑色の御守り。これさえあれば何があったって兄ちゃんの「楓」って呼ぶ声と一緒だ。
ぼくは歩道橋の階段をタンタンと登った。雲の隙間から薄く差した日が手招きしている。
--…楓、今日はどこへ行きたい?
ママの声が聞こえた気がして空を見上げたら、橋の下を通る大型トラックが細かく足元を震わした。
「雪を…」
あの時と同じ言葉がぽろりと口から落ちて、真っ白に凍って、コンクリートの上で割れて消えた。
橋の真ん中で鉄の柵を握る。道路を流れる車がおもちゃみたいで、次のクリスマスには沢山のミニカーを買おうと笑ったパパを思い出した。
さっきのダンプカーより大きなトラックが信号をこえてくる。ぼくは手すりに足をかけた。
懸命に登ろうとしたけれど、鉄の柵はツルツル滑るし、高い位置に引っ掛けただけの足には力が入らない。
ダメだ。何か踏み台になるものがここには必要だ。
「ぼく、何してるの?」
突然声をかけられて柵からパッと手を離す。白い息を残して振り返れば、ママに似た女の人がぼくに向けて傘を傾けていた。
「そんな所に登ったら危ないよ。お家の人は?」
ぼくは全力でその場から逃げた。
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