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最後の足跡
喉が痛い。手足の感覚がない。体はもう、寒さが分からない。
踏切…踏切…、ふみきり、ふみきりふみきりふみきり。
ぼくの頭の中はそれでいっぱい。いま何時?まだ十時じゃない?はやく。はやくあそこへ。
カンカンと不快な音を歪ませながら、黄色と黒のしましまが閉まっていく。
轟音にまみれた怪物のような電車は、世界をまるごと揺らしながら通り過ぎた。すごい迫力。電車って、こんなに怖かったかな。
辺りに静けさが戻り、朝を急ぐ人と混み合う車を堰き止めていた遮断機が空へ戻っていく。
次だ。次の電車を待たなくちゃ。
一歩、一歩、踏切の中へと進む足。
緑のミニカーはぼくに力一杯握られて、知らぬ間にタイヤがひとつ取れていた。
鉄の線路をまたいだ所で立ち止まり、雪に刻んだ自分の足跡を振り返る。
今日、ぼくは人生で一番ひどいことをする。世界で一番いらないぼくを、ぼくが殺すんだ。
カンカンと、耳が壊れそうな音がぼくの全身を抱きすくめた。
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