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ぼくの罪
暗い。寒い。
ウソでしょう冬将軍。もしかしてぼくは天国じゃなくて、やっぱりあなたに連れて行かれちゃったのかな。
 ̄  ̄  ̄
「……で、…えで、…おい!!しっかりしろ、楓!!」
兄ちゃんの声だ。ミニカーは落としちゃったのに、どうして兄ちゃんの声が聞こえるんだろう。
「かえで!!」
ぼんやり目を開くと、二度と会えないはずの兄ちゃんがいた。それだけでぼくの胸はいっぱいになってしまって。
「にい…ちゃん…」
「何…何やってるんだよ!!なんであんなこと…!!この…、このバカ!!」
兄ちゃんの服はくたくたなだけじゃなく、泥だらけで血だらけだ。周りは救急車を呼んでとか、警察に連絡をとか、アリの巣に砂を入れたみたいに行ったり来たり。
あぁ、失敗した。…失敗したんだ。
ぼくを助けたせいで、兄ちゃんの頭からも血が出てる。またぼくは兄ちゃんに酷いことをしてしまったんだ。
「ごめんなさい…兄ちゃん」
ツ…と、兄ちゃんの温もりを覚えていたほっぺに涙が流れ落ちる。
ずっと、言えなかったことがある。ずっと、隠していたことがある。
雪山の帰り道。滑ったタイヤ。後部座席のぼくだけ残して逝ってしまったパパとママ。
あの日、どこに行きたい?って聞かれたから、ぼくは、ぼくは…
「雪を見に行きたいって…ぼくがママに言ったの」
ごめんなさい。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。
すっかり変わってしまった兄ちゃん。疲れきって痩せていく兄ちゃん。「誰」がそうしたの。誰がそんな酷いことをするの。
ぼくはそいつが憎い。絶対に、絶対に許さない。絶対に、絶対に許せない。
そいつを幸せになんてしてやるもんか。消えた笑顔も二度と返してやるものか。冷たい氷の上に頭をついて何百回も謝らせて、お前が兄ちゃんから何を奪ったのかを思い知らせて、思い知らせて、思い知らせて、世界一いらないお前を…ぼくが殺すんだ。
「楓…」
ほっぺの上に、ぼくのと別の雫がぽたりと落ちてきた。
嗚咽を噛み殺した兄ちゃんが力いっぱいぼくを抱きしめている。
「いくな、楓…。お前までいなくなるな」
温かい雫が、ポタポタ、ポタポタ。
泣かないで、兄ちゃん…。
「ごめんなさい…」
しんしん、しんしん、ぼくの上に雪が降る。
周りの雑音は白に溶けて混ざり、近づいてくるサイレンだけが赤くくるくると回っていた。
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