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1.凶作
一年ぶりに街から戻った俺は丘の上から村を見下ろし愕然とする。今頃は金色の穂が揺れているはずの大地には何も実っていない。昨年も稀に見る凶作で俺は金を稼ぐため街に出た。せっかくできた恋人と離れて暮らさなければならないのは残念だったが仕方がない。まぁ二年続けて凶作ってこともあるまい、そう思い戻ってきたのだが……。
「おい、今年もダメだったのか?」
父が村長をしている俺の家はそれなりに裕福だが両親の表情は暗かった。
「戻ったか、ダリル。じゃあお前も見たんだろ? あのとおりだよ」
「ちぇっ、しけた面してんじゃねぇよ。ちゃんと金も送ってやったろうが」
稼いだ金のほんの一部だけどな、と心の中で付け加える。金のほとんどは街で酒と女に使っちまった。恋人と会うこともできないんだ、そのぐらいの憂さ晴らし許されて当然だろう。俺はまだ二十六歳、この若さで禁欲的な生活などできるはずもない。
「まあいい、ちょっと出てくる」
俺は何か言いたげな両親を残し、村の酒場へと向った。街と違って村にはしけた酒場が一軒あるだけだ。隅っこの席でぬるいエールを呷っていると近くでヒソヒソ囁く声が聞こえてくる。
「なぁ、聞いたか? ついに〝あれ〟をやるらしいぞ」
「らしいな。二年続けてこれじゃあな。仕方あるまいて」
彼らの会話が気になり声をかける。
「なぁ〝あれ〟っていうのはひょっとして、例のやつか?」
男の一人がジロリとこちらを見る。
「ああ、バレクさん家の倅か。どうやらこの村は豊饒の女神様に見捨てられたらしいぞ。彼女のご機嫌を取るには〝あれ〟をするしかない」
男はそう言って目を伏せる。
「けっ、あんなのただの迷信だろ? くだらねぇ」
ったくこの村は変わらない。くだらない言い伝えを真に受けてやがる。俺はフン、と鼻を鳴らしエールを喉に流し込むと店を出た。
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