11月1日

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11月1日

都会に出て驚いたことは? 人の多さ。建物の高さ。どんなに目をこらしても、有名人を見つけられない現実。 今日、ひとつ、答えが増えた。 他にも足を止めている人がいるから、私の反応が異常なわけではなさそうだ。 スーパーで、犬が歩いている。 補助犬OKのステッカーは地元のスーパーにも貼ってあったけど、現場を目にするのは初めてだ。 えっと、盲導犬。 普段むきもしないリンゴをカゴに入れて、ひっそりと行き先を見守る。 本人は見えていないわけだから、視線も感じないのかな。それとも、犬が緊張したらわかっちゃうのかな。 好奇心に抗うことができず、長い買い物を楽しんでしまった。 「昨日、スーパーにいたよね」 「え?」 ガタガタに皮をむかれたリンゴを指差したのは、簗瀬(やなせ)さんだった。職場は同じでも、話したことはない。スマートな彼は女性人気が高く、田舎くさい私なんて相手にしないのだ。 「俺がいたの、気付かなかった?」 「...はい」 それが、社員食堂で向かい合って昼食を摂っている。帰り、雨が降るかも。 今日の日替わり、鮭なんですね。黒焦げの卵焼きより、絶対美味しい。 「ははは。ずっと見てたもんね。珍しかった?」 「...初めて見たので。失礼かなとも、思ったんですけど」 おひたしは、ジャリジャリと砂の食感がする。こんなことなら、惣菜だけを買って帰ればよかった。 「あからさまに『見るな』っていう親もどうかと思うけどね。次お会いしたときに、どうするかじゃない?」 「わっ」 わー。キラキラ解答、いただきました。 「でも難しいよね。俺もこの前杖?ついてる人見かけて声かけたんだけど、『耳は聞こえてるのでうるさくしないで』って怒られちゃって」 「いやあ、先輩、声をかけられるだけすごいですよ」 「そっ...かなあ」 ですですです。 深い相槌に満足したのか、一口が大きくなった。正直、米粒まみれのお茶碗は見たくなかったんだけどなあ...。 「俺達には無い感覚をさ、磨くわけでしょ?すごいよね、ああいう人達」 「...そう、です、ね」 「だからさ、あんまり飛び抜けられると、自信なくしちゃうよね」 「あ、あー...ヘレン・ケラー....的な?」 「そうそう!」 ヒラちゃん話合うわーとご満悦のところですが、私は(タイラ)です。 次、『スマートで素敵』なんてあなたの噂を聞いたら笑いを堪える自信がありません。どうしてくれるんです?? 犬の日
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